気球の威力

台湾

今アメリカで一番ホットな話題は何かというと気球、風船ですね。恐らく今のアメリカでは小学生・中学生から大人まで、今一番ホットな話題です。どういう風船かというと、中国の偵察気球です。これはアメリカの国防総省が2月2日に発表したもので、モンタナ州の上空に何と中国の巨大な風船が飛んでいるということ。この風船はいったいいつ頃やって来たのか。実は1月28日にアラスカからカナダ経由で、アメリカ北部のモンタナ州の上空に来たのを、地域の住民に発見されました。モンタナ州のどの場所で何を観察しているかというと、モンタナ州には(アメリカに)3か所ある核兵器を積む大陸間弾道ミサイルの基地の1つがあるわけです。つまりその施設を観察しているのではないかということです。アメリカでは2月2日に一般の住民が発見し、国防総省も実は1月28日からこのことをもう摑んでいるわけです。そして発表したのは2月2日。発表した直後、中国はそれを否定しました。「いやいや、我々とは関係がない」と。間もなくして中国側も認めました。「いやいや、これは中国政府のものではないですよ、スパイ気球でもないです。これはあくまでも民間の気象観測気球です。それが誤って、西風に吹かれてアメリカの上空に入ってしまって、まことに遺憾」謝罪ではなくて遺憾ということなんです。そして「冷静に対処してください」と求めた。自分がやったことに申し訳ないとか、失礼しましたとか言わない。「冷静に(対処しろ)」と言ったわけです。そしてアメリカは決して冷静ではありません。アメリカの国防総省はもちろんこれについて中国に抗議した。そしてアメリカの下院議長であるケビン・マッカーシーは「これは主権侵害だ。許せない」と言った。アメリカの主な政治家はほぼ全員、中国を物凄く強い口調で批判しました。トランプ前大統領は自分のSNSで「撃ち落とせ」と書いた。「撃ち落とせ」とたくさんの人がそう言いました。さらに今の下院の中国委員会の委員長であるギャラガーは、「これはアメリカを馬鹿にしているんじゃないか」と非常にカンカンです。

これはどこまでの意味があるかと言うと、恐らくこれは9.11以来初めて、アメリカの領土領空を侵犯されたという、アメリカ人にとっては非常に大きなインパクトです。アメリカは今確かに反中国的ですけれども、その反中国というのは頭の中だけで、心の中では「中国は所詮遠い国」と思っている。政治家や一握りの専門家は「中国は脅威だ」と強調しています。特に軍関係者はそれを強調していますけれども、一般のアメリカの国民は政治には関心がありません。国際政治には関心がないんです。世論調査をすれば「中国は何となく嫌だ、あまり好きじゃない」と回答する。だけれども「明らかに中国は敵だ、危険な存在だ」という意識をもっているアメリカ人は決して多くはないです。ごくごく一部です。しかし、今回の気球はまさに中国のスパイ気球、中国の国家のもの。しかも物凄く大きい。直径40メートルです。もしその中に積んでいるものが、単にカメラとか情報収集のものじゃない場合、生物兵器とか化学兵器とか、これを一気に拡散されたら、下手すると何万人、何十万人単位の人間が死ぬという可能性もあるんです。そして易々とアメリカの上空に入ってしまっているわけですから、当然アメリカ人はカンカンです。だから一気にアメリカ人の危機感が高まりました。しかしそれに対して中国の反応はどうか。「冷静に、冷静に。これは民間のものだから、そんな大げさにすることないよ」その後に中国は何を言ったかというと、「アメリカの無責任な政治家たちは、わざと煽っているんだ。わざとこれを利用して中国を攻撃している、中国に汚名を着せている。極めて無責任なことだ」。そして何とブリンケン国務長官はもともと2月5日と6日に北京を訪問して習近平国家主席とも会う予定でしたが、2月3日に飛行機に乗って出発しようとした時に、その情勢を見て、もし中国を訪問したら国内でかなり批判されるのではないかと、結局中国訪問を延期にしました。延期というのですが、僕から見れば、実質的に中止です。機会があればまた行くと、ややトーンダウンをしている。それで中国はどういう反応かというと、中国外交部は2月4日にホームページでこう言っています。「いやいや、我々中国もアメリカも(ブリンケン国務長官の)訪問があるとか、全く発表していない。こんなのはアメリカ側が勝手にそう言っているだけ」国務長官の訪問を中国は「いえいえ、我々は聞いていないよ。知らないよ。アメリカが勝手にそう言っているだけ」と。中国は嘘つきの天才ですけれども、これは嘘つきというよりは開き直っています。中国は実は新華社通信だけを見ていると、1月17日に中国外交部の報道官である汪文斌(おうぶんひん)は、「ブリンケン国務長官の訪問を我々は歓迎する」と言っているではないですか。「そして我々も具体的にアレンジしているんだ」と言ったのに、2月4日のホームページに「こんなこと知らないよ、アメリカが勝手に言っているだけ」と発表した。アメリカ人がこれを見てどう思うでしょう。「ああそうですか。我々自分の思い込みで勝手に中国に訪問しに行くだけなんだ。実際向こうはこういうことを知らなかった」ということでこの話は通るのでしょうか。そしてもちろんアメリカ国内ではバイデン政権にもかなり批判しているわけです。「何だ、弱腰じゃないか、何で撃ち落とさないのだ」と。ついにバイデン大統領も「実は2月1日にこの報告を受けた。その時に私は撃ち落とせという指示を出した」ただし軍の方が今モンタナ州の上を飛んでいるから、撃ち落とせば破片によって下の住民に被害を与えてしまう可能性があるから、今はちょっと撃ち落とさない方がいいと。結局はこの気球はサウスカロライナかノースカロライナの近くの海に出た途端に、アメリカ政府が戦闘機を使ってミサイルを発射して撃ち落としたわけです。

いったいなんで今頃気球なのかと、恐らく不思議に思う人もいるかもしれません。だって今は人工衛星の時代じゃないですか? 観察するために人工衛星を使えばいいんじゃないか。なんでわざわざこんな第一次世界大戦以前、100年以上も前の手段である気球を使って偵察するのか。実は人工衛星の場合は固定した物を観察するのに非常に高い軌道から観察しなければいけない。もっとはっきりと見える人工衛星は低軌道の衛星を使わなければいけない。しかし低軌道の衛星の場合はぐるぐる回っているから、ずっと同じ場所で停まっているのを撮るということは難しい。何時間かに1回飛んで観察するわけです。ところが気球の場合は何時間も何週間もずっと同じところに停まって観察できる。しかもかなり大きな気球であれば、その中に積んでいる観察センサーなどいろいろと精密なものを使えるわけです。地上の通信状況もキャッチできます。アメリカの場合は軍事演習とか一部の通信をキャッチできますが、基本は通信をキャッチする際は飛行機で探察しています。そして飛行機よりも気球の方がもっと利用しやすい。なぜかと言うと安いから。しかも今の気球の場合は太陽光パネルをつけて、動力エネルギーを自分で供給できる。そしてある程度制御できる。操縦できる。空気を出したり、高度の上下調整もできる。さらにAIの技術を利用すれば、かなりいろいろな情報を得られるわけです。第一に詳しい情報を得られる、第二に安い。そして第三はもっと重要。探察されにくい。意外でしょう。こんなに大きくて直径40メートル、バス3台分もある気球は、空を見上げれば分かるんじゃないかと思うでしょう。実は分からないんです。なぜかというと、探察機は非常に高いところ、民間機よりも高い2万メートルとか3万メートルとか非常に高いところにある。だから見ると物凄く小さい。そしてレーダーになかなか写らない。レーダーに写るのは金属とか、熱を出しているもので、風船の場合は金属製のものは少ないわけです。レーダーではなかなかキャッチしにくいです。ですから実際、最近はこういう気球を使って偵察するとか、軍事的に使うとか、よく開発されています。

そしてこの気球は今回初めてアメリカの上空を侵犯したわけではありません。実はアメリカの国防総省は「過去にもあった」と今回初めて認めました。実際2022年、去年に複数の探察気球が台湾に入りました。

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