真実と嘘を織り交ぜたペテン師の手法

台湾

藤井:それでは引き続き、第2セクションのB『真実と嘘を織り交ぜたペテン師の手法』ということで、日経の連載批判をお願いします。

林:今回は台湾ボイスで紹介した部分も多少は重複するかもしれません。

藤井:結構です。

林:皆さんにも分かるように、どの部分がいったいウソなのかを整理するような形で説明していきたいと思います。

藤井:はい。

林:ペテン師の話が最初から最後まで全部ウソということはあり得ません。なぜなら全部ウソなら誰も信じないからです。本物のペテン師は9割の真実に1割のウソを織り交ぜながら話を進めていきます。ペテン師の見た目ですが、決してウソを付くような人には見えません。発言内容も真実かのように思えてしまいます。そして本当に狙っている部分だけ、ウソを言うわけです。それ以外はほとんど真実です。だから今回の日経の連載も、実は真実とウソを織り交ぜながら記事を書いています。例えば〈台湾軍のOBのなかにスパイが存在している〉という部分は真実です。そして〈中国で利益を得ている台湾の商人がいる〉という部分も、〈台湾のなかに親中派が存在している〉という部分も事実です。例えば国民党などは親中派でしょう。このように真実のなかにウソが部分的に含まれているということです。では、記事全体の9割を信じて、1割を切り捨てればいいのか。そういうことにはならないと思います。記事全体に1割のウソがあれば、それ自体が信じられない記事になるからです。例えばラーメンのなかにゴキブリ1匹が入っているとしましょう。ゴキブリさえ取り除いて食べなければ、そのラーメンは食べていいということにはならないはずです。「おいしい料理だから、ゴキブリ1匹ぐらいはいいじゃないか」となりますか。「ゴキブリは全体の1割もないから、9割をおいしく食べればいい」となりますか。そんなことにはならないはずです。記事も一緒ですよ。

藤井:はい。

林:では、具体的にどういう部分がウソなのかという話に移りましょう。1日目には8か所のウソがありました。1番目、〈軍幹部OBが中国に渡って情報を売るのはお決まりのルート〉というのがウソ。確かに一部は存在するかもしれませんが、お決まりのルートではありません。2番目、『それでも中国が好きだ』という見出し自体がウソ。3番目、〈我々こそ中国だ。今なお台湾独立に反対する教育が軍内で盛んだ〉というのがウソ。確かに30数年前まで台湾独立反対の教育は行われていましたが、台湾が民主化された2000年以降、このような教育はまったくやっていません。僕らの年代の台湾人がこれを信じてしまうのは、自分たちが軍に所属していた当時、そういう教育があったからです。当時の台湾軍の教育では、敵は三つと教わりました。中国共産党、日本、台湾独立運動です。蒋介石時代は台湾独立運動も敵とみなされていました。それから〈軍幹部の9割ほどが退役後に中国に渡って軍の情報提供を見返りに金稼ぎするなど腐敗が常態化している〉というのもウソです。それから〈米国が長年、台湾への武器売却や支援に慎重だったのは台湾への情報流出を恐れたため〉というのもウソ。おそらく20数年前までは本当だったのではないかと思いますが、少なくとも蔡英文政権以降、そういうことはまったくないと言っていい。そして〈蔡英文が軍を掌握できていない〉というのもウソ。これは他人の口を借りたものではなく、日経が自ら書いているだけで、単なる日経の結論です。もちろん、これもウソです。さらに〈尖閣問題で中台の連携を望む声が絶えない〉というのもウソになります。これはほんの一握りの人たちで、親中派のなかのさらに急進的な人たちが言っているに過ぎません。この1日目だけで8か所のウソが含まれていました。2日目のウソですが、〈台湾の若者は台湾のために戦う愛国心がない〉というのがウソです。2020年の調査によると、20歳から29歳の若者の89%が銃を持って戦うと答えています。ほぼ9割です。だから台湾の若者に愛国心はないというのはウソになります。そして〈無党派が全有権者の4割から5割に膨らんでいる〉というのもウソです。僕が持ってきた統計資料は数日前に発表されたアンケート調査ですが、支持政党がない無党派層が25.2%、民進党支持が28.8%。国民党支持が17.9%となっています。これを見れば、民進党の支持者が多いのは明らかではないでしょうか。

藤井:はい。

林:連載記事では〈無党派が4割から5割に膨らんでいる〉と書かれていましたが、せいぜい4分の1じゃないですか。

藤井:25%ですね。

林:だから、これもウソです。そして〈自分が台湾人だと意識する人の割合が20年をピークに下がり続け、昨年末に6割にまで落ち込んだ〉と書かれていました。この表現は、まるで非常に高い割合から急速に落ち込んだかのような錯覚を与えますが、日経が参照している台湾政治大学の統計を見れば実態が分かると思います。こういう傾向になっています。

藤井:緑は何でしょうか。

林:緑は、自分は台湾人であると考えている人たちの割合です。

藤井:要するに台湾人アイデンティティですね。自分は台湾人であると意識している人の割合はどんどん上がっているじゃないですか。

林:そうです。黒が自分は中国人であると意識している人の割合です。そして赤が自分は中国人であり、台湾人でもあると考えている人の割合です。

藤井:なるほど。

林:これは台湾政治大学の統計ですが、政治大学は昔、国民党の中央党校だった学校です。

藤井:あー。なるほど。

林:国民党が党のために創った大学で、もちろん親中派が多い学校として知られています。その親中派の大学が出してきた統計でさえ、自分は台湾人であると意識している人たちが6割を占めています。記事には〈6割まで落ち込んだ〉と書かれていますが、そもそも統計の最初は17.6%になっています。

藤井:あー。

林:〈6割まで落ち込んだ〉というのは、もちろんここからここをくらべたときにちょっとだけ落ち込んでいるように見える部分を指していますが、グラフ全体を見れば台湾人意識がどんどん増えているのは明らかじゃないですか。

藤井:どんどん増えていますよね。

林:これは国民党寄りの統計で、実はあまり信用されていません。それでは民間の統計を見てみましょう。これは台湾民主基金会の統計になります。

藤井:台湾民主基金会は有名で、いろんな統計を出していますよね。

林:はい。緑色が自分は台湾人であると意識している人の割合ですが、80.2%を占めています。それから自分は台湾人でもあり、中国人でもあると意識している人が10%になっています。一方、自分は中国人であると意識している人は5.5%しかいません。

藤井:なるほど。

林:これを見れば、明らかに台湾人意識は上昇傾向を示していると言えるのではないでしょうか。

藤井:はい。上昇しています。

林:決して下がっているわけではないと思います。

藤井:まったく下がっていないと思います。

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