国際社会への影響

台湾

藤井:はい。それではDセクションは『国際社会への影響』です。今回の気球事件は思っていた以上に大きなインパクトがありました。歴史に残るような事件になるのではないかと思います。『国際社会への影響』という観点では、いかがでしょうか。

林:はい。国際社会は冷戦以降、すべて経済優先という流れのなかで動いてきました。経済さえ良好であれば、中国との付き合いにおいてイデオロギーはたいした問題ではないと考えられてきたと言っていいでしょう。そして冷戦終了とともに中国の経済成長が始まり、2001年にはWTOに参加することが決定しています。2002年に正式に加盟すると、世界はまるで中国が1党独裁の国ではなくなったかのように錯覚しました。

藤井:そのように扱ってきたわけですね。

林:はい。しかしながら1党独裁、共産主義という中国の体質は基本的には変わりません。それなのに、日本のなかにも「いやいや、中国は共産主義の看板を掲げているだけであって、実際には資本主義だ」というような論調は結構ありました。しかも中国は見た目には現代的になったと言えるでしょう。特に習近平政権以降は外観を重視するということで、地方都市にも高層ビルや現代的な建物がたくさん建てられました。中国には世界最長の高速鉄道が走っています。駅も東京の地下鉄とほとんど変わらない。場合によっては、もっともっと先進的なものに生まれ変わっているとも言えるかもしれません。一方、台北の街並みはずっと変わらなかった。だから中国人が観光で台湾を訪れると「台湾は中国より何十年も遅れている」とよく言います。そこに「中国はやっぱり先進的な国だ」という錯覚が生じてしまったのではないでしょうか。外形的に先進的になったことで、中国人は内面的にも先進的になったというような錯覚に陥ったわけです。人間というのはスーツを着ると紳士に見えるものです。実際には泥棒なんですよ。ところが見た目は紳士です。最高のペテン師は基本的にそういう格好でみんなの前に現れると思いませんか。

藤井:わははは。

林:ペテン師は「俺は紳士だよ」というような顔で近づいてきます。「俺はペテン師だ」というような顔のペテン師は基本的には存在しないでしょう。

藤井:はい。

林:先ほど説明したように、冷戦以降は世界各国が利益優先の流れのなかで動いてきました。ところが今回の気球事件によって、国際社会は利益より国家安全のほうが大事だということに気づきました。アメリカは今、まさにそういう反応を示しています。もちろん利益は大切です。しかしながら国家が安全でなければ利益は無意味だということも、また一つの事実でしょう。

藤井:そうですね。

林:危機に直面したとき、利益は国家安全とは比べ物にならないくらい軽いと言えるのではないでしょうか。戦争中に商売がどうだとか言っていられません。ウクライナとロシアは今までずっと商売してきたじゃないですか。ところが戦争になった途端、それでも利益のためにやるのかというと、そういうわけにはいかない。今回の気球事件後、アメリカは国民レベルで国家安全の部分を急上昇させました。アメリカではキューバ危機のときに国が滅びるのではないかという緊張感が走りました。そのとき以来の衝撃だったのではないかと僕は考えています。

藤井:はい。

林:もちろんキューバ危機とは違って核ミサイル基地が建設されたわけではないものの、中国のスパイ気球は実際に核施設を偵察していたわけです。これは、まさに戦争の前段階と言えるのではないでしょうか。戦争行為の一部と言っていいかもしれません。だからこそ、ラスムセンの世論調査でアメリカ人の半数が5年以内に中国と戦争する可能性があるというふうに答えました。気球事件をきっかけに、おそらくアメリカ人は国家安全を重要視するようになる。そうなると、自然とウォールストリートの影響力が低下していくことが考えられると思います。僕は中国の唯一の同盟国は“ウォールストリート共和国”だとさえ思ってきました。なぜならウォールストリートがアメリカ国民の年金さえ中国に投資するくらい無節操な人たちだからですよ。

藤井:そうですね。ウォールストリートはニューヨークの地名ですが、実際上は無国籍金融資本を指していて、彼らは「国籍なんかどうでもいい。金さえ儲かればいい」と考えているような金儲け至上主義の人たちです。

林:そうですね。極めて無節操な人たちです。そしてアメリカの有名大学の人たちも極めて無節操です。藤井さんの母校のハーバード大学も、MITも、みんな無節操です。

藤井:そうね。チャイナから留学生を受け入れ、お金もたくさん貰っています。公然たるスパイのような人たちが大学のなかにはたくさん潜んでいますよ。

林:そういう実情があるからこそ、中国とのあいだで何か問題が起きるたびにウォールストリートや有名大学の人たちが表に出てきて、必ず中国の弁護を始めるということが続けられてきたわけです。

藤井:そうそう。彼らはボランティアで弁護を始めるわけですよ。

林:はい。ところが今回ばかりは誰も出てこられない。なぜなら今回の問題が国家安全に関わることであって、中国を弁護すること自体が売国行為に当たると思われているからです。そこまでアメリカ国内の雰囲気は変わりました。こういった流れはアメリカだけではなく、実は国際社会にも波及しています。例えば日本政府が2月15日に武器使用の要件の緩和を検討すると発表しています。国際社会への影響という観点で、日本の動きは最も分かりやすい例だったのではないでしょうか。

藤井:そうですね。場合によっては無人機を撃ち落とすことができるようになるかもしれません。

林:台湾の国防部も「必ず撃墜する」との声明を出しました。僕からすれば「月に1回ぐらい飛んできていたじゃないか。なぜ今まで撃墜しなかったんだ」と言いたいところですが。そしてイギリス首相も「必ず撃墜する」と発表しています。これは学習効果というより、アメリカが動いたからこそ、これらの国も追随することができたと言えるでしょう。

藤井:そうですね。日本も過去に3回ほど気球を確認していたのに、それを言い出せなかった。ところがアメリカが動き出したことで、防衛省は「いやいや、全部チャイナから来たものだ」と認めました。そして「今後は撃墜する」とさえ言いました。もし気球事件が起きていなかったら、防衛省はこんなことは口にできなかったと思います。

林:なぜ今まで撃墜しなかったのか。その理由は二つあるのではないかと僕は考えます。一つは、もちろん中国が怖いから。中国を刺激したくないから。もう一つがもっと重要だと思いますが、各国がアメリカの逆鱗に触れるのではないかと考えていたからではないでしょうか。アメリカに「勝手なことをするな」と言われるから、撃墜できなかったというのが実際のところではないかと僕は思っています。

藤井:そうそう。

林:一般のアメリカ人にはナイスガイが多い。一方、アメリカ政府は物凄く傲慢です。もし撃墜したら「面倒なことをやってくれたものだ」と詰め寄られることでしょう。ちょっと前に中国が金門島の近くでドローンを飛ばして写真を撮っていたことがありました。そのとき、台湾の軍は石を投げて落とそうとしたわけです。僕なんかは「なぜ発砲しないんだ」と言いたいところですが、彼らは発砲できないわけですよ。もし台湾の軍が部隊に「撃墜してもいい」と命じていたら、どうなっていたでしょうか。過去の例を振り返れば、どうなっていたかは明らかです。抗議してくるのは中国ではなく、アメリカのほうなんですよ。

藤井:そうですね。

林:アメリカ政府は今まで「中国を刺激するな。我慢しろ。俺の言う通りにしていればいい」という態度を取ってきました。アメリカの態度は事なかれ主義で、はっきり言わせてもらえば非常によろしくなかった。今回の気球事件でもアメリカ政府は撃墜したくなかったというのが本音でしょう。だからこそ、ずっと放置していました。ところがアメリカの世論が「撃墜しろ」と大騒ぎになっているのを見て、政権がようやく撃墜命令を出したというのが実情だったのではないかと思います。

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