日経の大罪

台湾

藤井:こんにちは。藤井厳喜です。今日も台湾ボイスを林建良さんと2人で元気にお送りしたいと思います。さて、今日のテーマは『習近平の台湾侵略野望に加担する日経』です。このあいだの日本経済新聞の台湾に関する連載があまりにひどい内容で、通り一遍の批判だけでは済ませられないと感じました。その背後にかなり根深い問題があるのではないか。そこら辺を林さんに根掘り葉掘り聞きながら、徹底的に批判していきたいと考えています。いつも通り、四つのセクションに分けて進めていきますが、まずはA『日経の大罪』ということで、お話しをうかがっていきましょう。台湾ボイスのなかで林さんがそれぞれの回に分けて批判してきましたが、そこら辺をまとめてお聞きしたいと思っています。それから、その前後の流れがどういうことだったのかということも含め、解説をお願いできますか。

林:はい。今回の日経新聞の連載については台湾ボイスでも4回に分けて、どういうところがウソなのか、どんなデータが間違っているのか、どういう意図があるのかということを解説してきました。今日はなるべく重複しないように、今までの材料とは別の観点で大きな流れを説明してみたいと思います。

藤井:お願いします。

林:『日経の大罪』というテーマですが、日経の連載にいったいどういう大罪があるのかというと主に3点あると考えています。1点目、今回の連載が明らかに中国の認知作戦に加担しているということです。意図的かどうかは別にして、結果的に加担していると言っていいでしょう。2点目、これが台湾を支持しないという世論形成に寄与するということです。3点目、今回の連載が日米同盟の破壊を促すのではないかということです。

藤井:その通りです。

林:まず1点目から見ていきましょう。連載の題名は『迫真。台湾、知られざる素顔』です。台湾人からすると、この題名そのものに悪意を感じざるを得ません。今まで日本人は概ね「台湾は親日国家だ」という印象を持っていたのではないでしょうか。そして多くの台湾人も「日本が好きだ」という感情を抱いてきました。一方、中国にいじめられてきた台湾の人たちは中国を嫌っています。ところが、この連載にはその印象を最初から完全に覆すような見出しが並んでいました。〈台湾の素顔とは。それでも中国が好きだ〉という文字が躍っていたわけです。

藤井:デカデカと書かれていました。

林:今回の連載記事で日経は「あなたたち、今までの認識は間違っているよ。それはウソだよ。台湾の知られざる素顔とは何か。それは、それでも中国が好きだということだよ」と言いたいわけです。連載には『迫真』という題名が付いています。要するに台湾の真実とは実はこういうことだと言いたかったのではないでしょうか。冒頭から〈あなたたち、今までの台湾に対する認識は間違っている〉と書かれています。これが1点目です。

藤井:はい。

林:2点目、この連載が掲載された時期が問題です。

藤井:このタイミングがまた重要だったと思います。

林:はい。この連載は4回に分かれていて、1日目が2月28日に始まり、3月3日に終了しています。他方、中国で両会と呼ばれる政治協商会議と全人代がいつ頃から始まったのかということですが、政治協商会議が3月4日、全人代が3月5日にそれぞれ開幕しています。そして10日間の日程で3月14日に閉幕しました。つまり今回の連載が終わった翌日の3月4日に両会が始まったわけです。その時期に合わせて連載のスケジュールを組み、「実は台湾はこうなんだ」という記事を載せること自体、これが中国の認知作戦だとすれば効果てきめんではないでしょうか。4回の連載のなかのどのような部分が認知作戦に当たるのか。日経が書いているなかで中国のメリットになる部分が5点あると考えています。1点目、台湾軍は信用できないということ。記事には〈台湾軍OBの9割が中国に渡って情報を売っている〉と記されています。さらにそれが〈お決まりのルートだ〉とも指摘しています。2点目、これは1回目から4回目まで貫かれていることですが、台湾は実は親中国的かつ反日的だということです。3点目、台湾人意識が低下しているということ。記事には〈台湾人意識がどんどん下がっていて、今はもう6割まで落ち込んでいる〉というふうに表現されています。これについては台湾ボイスで説明しましたが、台湾では「親中派だとか、反中派だとかというのはもう嫌だ」と考える無党派が実は4割から5割に増えていて、中国を争点にすることに嫌気が差しているというようなことが言及されています。4点目、台湾の経済は中国に依存しているということ。日経は〈これから非常に危ない〉と指摘したうえで、〈今の台湾には経済で中国から自立する力はもはや残っていない〉と言いきっていました。

藤井:そうですね。

林:これはインタビューで誰かに聞いたものではなく、日経が自分たちの考えをそのように言いきっていました。

藤井:誰かの言葉を借りたものではなく、いわゆる地の文。記者が書いている文章ということですね。

林:そうです。引用ではなく、彼らの結論として書いています。そして〈こんなに中国に依存しているから、サプライチェーンの安全網の構築は無理だ〉と結んでいます。これら5点は、中国の歩調に合わせた認知作戦ではないかと僕は見ています。

藤井:ずばり、そうでしょう。タイミングから何から図ったうえで今回の連載を出してきたのではないかと私も見ています。

林:ええ。

藤井:台湾の悪口を散々言い、日米と日台の分断をやっておいて、翌日から両会のニュースを出してきて、キャンペーンを張ったということではないでしょうか。

林:そうです。

藤井:そうすると、チャイナがいかにも有利な立場にいるかのように日本人を洗脳できる。まさに日本人の認識そのものを変える認知作戦、Cognitive operation(コグニティブ・オペレーション)そのものじゃないですか。

林:そうですね。さらにちょうど両会の会期中の3月10日、中国がサウジアラビアとイランの国交回復の仲介に成功したというニュースが発表されました。その後の習近平のロシア訪問もそうですが、これらの発表にどんな意図があるかというと、要するに世界の大きな流れとして、決して台湾ボイスが言っているような日米など民主国家を中心とする陣営だけに力があるわけではなく、実際にはもう一方のあの陣営も物凄い力を持っていると言いたいわけです。あの陣営とは、中国を中心とした、ロシア、イラン、それから北朝鮮の陣営。中国はさらに中東にも手を突っ込んでいます。また南半球を中心とする途上国のグローバルサウスも含まれます。彼らは「実はグローバルサウスも中国支持だよ」ということを印象付けたいのではないでしょうか。実際に習近平はロシアを訪れています。彼の意図は明確でしょう。これからはもう一つの陣営である枢軸国を形成していくという意思の表れです。

藤井:はい。

林:それだけではなく、3月27日には馬英九(ばえいきゅう)が中国を訪問します。馬英九はそもそも中国に行きたがっていました。彼は総統在任中に実はお父さんを亡くしていて、そのときの位牌には化独漸統(かどくせんとう)という文字が記されていました。化というのは、化学反応の化です。独というのは、独立の独。漸(せん)というのは、漸くの漸。統というのは、統一の統です。化独漸統というのは、独立の芽を潰して、徐々に統一の方向に導いていくという意味になります。

藤井:なるほど。

林:彼は台湾を中国に併合させたいという考えの持ち主で、1期目の総統在任中、露骨にそのように発言していました。そのぐらいの親中派です。そもそも彼は8月に中国を訪問する予定でしたが、おそらく習近平あるいは中国側からの命令を受け、3月27日に前倒しすることになりました。なぜ3月27日なのかというと、蔡英文総統がちょうど中米訪問に向かう直前だからです。

藤井:なるほど。

林:蔡英文総統は台湾時間の3月29日に中米訪問に出発した後、30日にはニューヨークで講演することになっています。そして4月初め頃にはカリフォルニアにトランジットして、ケビン・マッカーシー下院議長と会談することが決まっています。要するに馬英九の中国訪問によって、アメリカでの蔡英文・マッカーシー会談の効果を打ち消そうというのが狙いではないでしょうか。これが1点目です。

藤井:なるほど。

林:2点目、馬英九のように中国大好きという台湾人も実は存在しているということです。彼は台湾総統を2期もやったわけですから、それなりに支持者がいたことは確かでしょう。今回の馬英九の中国訪問の名目は先祖の供養ということになっています。彼の先祖、父親の本籍地は毛沢東と同郷の湖南省ですから、もし本当に先祖の供養が目的なら湖南省に行くだけでいいじゃないですか。

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