中国リスクを明確にしたG7

台湾

台湾ボイスの皆様、こんにちは。林建良でございます。広島G7は非常に成功裡に終わったと言っていいと思います。G7と言えば、元々7つの工業国の集まりで、年に1度ぐらい国の指導者が集まります。別に事務所があるわけでも、会って何か約束事をしても法的裏付けがあるわけでもありません。しかしこのような国際的会議というのは、首脳であるかどうか、あるいはスケールが大きいかどうかにかかわらず、一番重要なのは何でしょう。一番重要なのは守る意志があるかどうかとういことです。言った言葉を守ってくれるかどうかということだけなのです。例えば、世界で一番大きな組織とは何か。国連でしょう。しかし国連の安保理の理事国でありながら、国連憲章を守らない国が少なくとも2か国存在しています。1つは中国、もう1つはロシアです。ロシアはウクライナを侵略しました。これまさに自分が作ったルールを守っていません。さらに、第二次世界大戦直前のミュンヘン会議を、すぐにヒトラーは破りました。ですから、首脳会議だからすごい、偉いとか、そんなことはないのです。会議が重要であるかどうかというのは、会議に参加するメンバーたちがお互いにコンセンサスを得て、さらにそのコンセンサスを忠実に守ってくれるかということなのです。

そういう意味で言えば、今回の広島で開かれたG7は、ある意味で成功と言えます。なぜかというと、今回の会議はおそらくみんなが何とかしなきゃ、と思って集まったわけです。ですからその問題解決に対してはそれなりの熱意があると解釈してもいいと思います。今回のG7の主役は、間違いなく岸田総理とゼレンスキー大統領です。なぜかというと、この主役以外に裏に悪役が存在しています。その悪役はこの会議には参加していませんが、しかしこの会議は間違いなくその悪さをする悪役をどうやって退治するかという会議です。ですからその裏側に悪役は少なくとも3名います。その3名とはもちろんまずロシアのプーチン大統領です。もう1人は北朝鮮の金正恩。もう1人は誰かというと、実は中国の習近平です。その悪役の中で、実は一番大きな問題とは、ロシアではなくて中国です。なぜかというと、今のロシアは会議の中で重要な話題で、これが終わった後の首脳のコミュニケでは、一番トップに出たのはロシアとウクライナのことです。しかし今のロシアはかなり弱まっています。どのような話をするかというと、いかにして止めを刺すかということ、それも大した問題ではありません。その後はいかにロシアに罰を与えるとか、いかにウクライナを再建するとか、やるべきことは大体決まっているわけです。しかしもう1人の最大の悪役はやっぱり厄介です。なぜ厄介かというと、この人が悪役かどうかということさえも、まだ議論しているわけです。世の中で一番の問題とは何か。一番の問題とは問題に直面した後にどうやって解決するのかではなく、問題を問題としないことです。実際、問題は存在しているのに、いやそんな問題じゃないとすることです。だから中国は非常に厄介な存在なのですけれども、いやいや中国はリスクではない、中国はチャンスだと言っているわけです。ですからこのように問題を問題としない場合は、問題解決に繋がりません。泥棒を泥棒と認めないと。あの人はちゃんと生計を立てているんですから、それは問題とは思わないと。問題と思わなければ、泥棒対策は絶対取れないわけです。それと同じなのです。

今回のG7 の一番大きな成果とは何か。僕に言わせれば、中国のリスクを明確にしたということです。つまり、今は中国とはどういう存在か。中国とはどんな位置付けなのか。中国とは我々にとってはプラスなのか、マイナスなのか。いろいろな複雑な側面があるわけです。だからこの最大の成果はまず中国とはどういう存在かという定義をはっきりする。それから中国とどう付き合うかということなのです。そうすると、今回のサミットのコミュニケを読んでも分かりますが、中国はリスクということです。実はこのコミュニケは何と40ページにもわたります。中に全部で66項目あります。この66項目、40ページのコミュニケの中で中国は問題だと、中国はリスクだという表現は1つもありません。しかしこのコミュニケは、最初から最後まで読んでいくと、中国はリスクであるということがその背後に書いてあるのです。

今回のG7の中で一番重要な言葉とは何か。どういう一言かというと、Deriskingです。つまりリスクを除去するという言葉です。しかし今までは、我々はこれから中国とデカップリングをしなければいけない、実際にデカップリングをしているんじゃないかと、いろいろ言っているわけですけれども、このコミュニケを最初から最後まで読んでいると、我々はデカップリングをするつもりはありませんと言っています。確かにそうですよね。デカップリングという言葉はいつごろ出たのか。実は2018年の米中貿易戦争が始まったとほぼ同時にこのデカップリングという言葉が出ました。ところが、世界のどの政府機関も、どの政府の正式の表明も、そしてどの現職の政府関係者も、「ああそうですよ。我々は中国とデカップリングをしていきますよ」と認めたことは一度もありません。全ての政府機関、全ての政府関係者はこういう問題を聞かれれば、「いえいえ、我々はデカップリングをするつもりはありません。我々はデカップリングをしません」ということです。でも一旦政府から退き、現職ではなくなると、「やっぱりデカップリングしなければいけない」という発言もいっぱいあります。どういう解釈かというと、実は中国とデカップリングをしたいということ、これは事実なのですけど、言ってはいけません。無言実行、あるいは不言実行。言わないけれどもやっている。世の中にそういうことはいっぱいあります。しかし今回は、「これは我々は言ってもいない」、言ってもいないこと、政府として認めていないことを、実際やっているとしても政策にはならないのです。あるいは共闘して、みんな同志、有志を集めて、「じゃあ一緒にデカップリングをしようか」という政策形成もできないわけです。だって口では認めていないわけですから、ないことをどうやって政策にするか。できないわけです。

しかし、デリスキング(Derisking)というなら、これは今回の会議の中で認めたわけです。しかもコミュニケの中にちゃんと書いています。デリスキング(Derisking)、つまりリスクを除去する。リスクはじゃあ誰が? リスクは基本的には中国です。中国はリスクだということで、文面には出てこないけれども、我々はデリスキング(Derisking)をすると書いたことが、みんな全員一致しているわけです。少なくともコミュニケを作った7か国の首脳はみんな認めているわけです。今回のサミットは7か国だけでなく、国際機関も含めると、全部で大体20前後の首脳が集まっています。それ以外は例えば中国に友好的なブラジルが来ているわけです。インドもインドネシアもベトナムも出ています。しかしそのG7という7つ国としては、リスクはある、それは除去しなければいけない。リスクがどこにあるのか言わないけれども、リスクが存在していることは認めています。つまりこれから我々は犯罪対策をやらなければいけない、しかし犯罪者がいない。そんなことはあり得ないでしょう。犯罪者が存在しているからこそ、犯罪対策を取れるわけです。犯罪者もいないのに犯罪対策を取る必要は全くないわけです。ですから今度、無言実行から有言実行になっていくわけです。そのリスクを除去することは有志でやる。

では、なぜこのデカップリング(Decoupling)からデリスキング(Derisking)になったのか。これはデカップリングの方が程度が激しいように見えますけども、デリスキングならトーンダウンするのか。僕はそうは思いません。しかしこのデリスキング(Derisking)という言葉は一体いつ頃から出たのか。実はこの言葉を提唱し始めたのは、つい最近、2023年の3月にEUの委員長であるフォンデアライエンが、会議の中で「我々は中国とデカップリングをしない。しかしデリスキングをしなければいけない」というのは、彼女が初めて言いました。彼女が言った直後に、「いや、我々はデカップリングをしない」。彼女もしないと言っているんですけれども、しかし「デリスキングをする」と言ったとたんに、日本もアメリカもイギリスも、そしてインドまでも、「そうだ、そうだ。我々はリスクを取り除かなければいけない」と言い出したわけです。だからこの言葉自体が非常に重要なのです。

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