台湾ボイスの皆様、こんにちは、林建良でございます。中国共産党が人を操る方法は基本的には2つあります。1つは利益、1つは恐怖です。しかもこれは別々に使うのではなくて、一気にやってくるわけです。つまり「お前は利益をもらうか、あるいは殺されるか、どちらか」ということで、これは非常に暴力団に似ている手法です。基本的には中国共産党というのは1つの大きなマフィアなので、この手法をよく使います。台湾に対する併呑の策略も基本的にこの手法、利益と恐怖です。利益とは経済です。恐怖とは軍事的恫喝ですが、その中の経済の面において中国が一番よく使っている手法は以商囲政です。以商囲政とは「ビジネスを以て政治を囲む」ということです。つまりビジネスマン、企業家の力を借りて、企業家を誘惑して誘致し、そして企業家を通じて台湾の政治を動かす。
しかし台湾の企業家はなぜ中国に利用されるのか。台湾では未だに、国民党を中心とする親中派は20数%存在します。なぜかというと、以商囲政というのはある意味で、中国の台湾に対する「囲い込み漁戦略」と言ってもいいです。特に貿易の面においてはそうです。台湾は国際的地位がほとんどなく、貿易協定、例えば自由貿易協定=FTAを結んだ国は、主要国の中で1つもありません。小さな国は10個ぐらいありますけれども、例えばシンガポールとかニュージーランドとかパナマとかです。このような小さな国との自由貿易連携はありますが、では大きな国とは全くないのか? それも違います。1国だけあります。中国です。中国とは、ちょうど親中派の馬英九政権の時、2010年の時に、ECFA、これはある意味で中国とのFTAといってもいいんですけれども、この連携を結びました。ECFAとは何か?つまり経済協力枠組協定という協定、Economic Cooperation Framework Agreementいうことです。これによって806品目のものを、3段階に分けて関税を撤廃します。中国とはFTAを結んでいて、それ以外の主要国とはFTAを結んでいない。そうなると、当然台湾の企業家は、中国と商売しやすくなるわけです。中国からの輸出にしても輸入にしても、800品目ほどに関税がないわけですから、非常に商売がしやすくなる。そのかわりに、他の国との商売が非常に難しくなります。例えば台湾のパイナップルです。台湾のパイナップルとフィリピンのパイナップルと比べれば、台湾パイナップルの方がかなり高いわけです。台湾パイナップルの方が甘くて品質がいいですけれども、フィリピンのパイナップルとは価格的に競争できません。なぜかというと、日本とフィリピンはEPA(Economic Partnership Agreement)を結んでいるわけです。だからフィリピンのパイナップルは関税ゼロです。ところが台湾のパイナップルの関税は17%です。たとえ出荷時に同じ価格にしても、台湾のパイナップルは17%も高いわけですから、当然競争力は落ちるわけです。
ではなぜ日本と台湾はFTAを結ばないのか。やっぱり中国の圧力でしょうね。中国は台湾に自分とだけFTAを結ばせて、他の主要国が台湾とFTAを結ぼうとしたら、必ず何らかの報復、恫喝をします。中国は経済のマーケットが大きいわけですから、中国の力に負けてしまうということがあります。たとえアメリカほど大きな国でさえも例外ではありません。しかしこれではやっぱり問題だということで、アメリカも徐々に認識してきたわけです。台湾は、中国がいる国際的組織には絶対に入れないわけです。WTOの場合は台湾と中国が同時加入できましたが、それ以外の組織では中国がその中にいれば、もう台湾が入れなくなってしまう。これは大きな問題だとアメリカもようやく気づいて、2022年5月にIPEFを立ち上げました。IPEFとは何かというと、インド太平洋の経済枠組みです。中国のない経済的組織を作ろうとしているわけです。ところが、中国がその中にいなくても中国が別の国々に圧力をかけてくるわけです。だからもし台湾がその中に参加すれば、それ以外の国々が中国の報復を恐れて参加できなくなってしまう。特に東南アジアの国々、ASEAN諸国はまさにそうです。だからIPEFは最初から台湾を入れるのも駄目なのです。台湾のためにわざわざ中国のいない組織を作ったにもかかわらず、それでも中国の圧力によって、台湾も参加できなくなってしまう。そのぐらいやはり中国の影響力が強いわけです。だから2022年5月にアメリカがIPEFを立ち上げた直後、台湾が組織に参加できないから、アメリカと台湾の2国間だけでも何らかの枠組みを作ろうかとなりました。米台21世紀貿易イニシアチブという枠組みです。台湾は仲間はずれにされて、誰も台湾と遊んでくれない、じゃ俺が遊んでやろうかということです。アメリカもIPEFの中で一番経済的な力のある国だし、一番マーケットの大きな国です。2022年の6月からスタートして、2回ぐらいの対面会議、1回はアメリカで1回は台湾で、そして数十回のオンライン会議を経て、ようやく第1弾の協定を結んで署名に辿り着いたわけです。
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