藤井:それでは本日の第4部に入りたいと思います。『アメリカ中間選挙後のアメリカと台湾の関係』ということで、お願いします。
林:はい。アメリカは中国と対抗していくうえで絶対に台湾重視になると思います。「アメリカと中国の関係が良ければ良いほど、台湾にとっていい」と指摘する評論家がいますが、それは絶対にない。
藤井:とんでもない間違いですね。
林:はい。安全保障の観点から考えれば、これは中国の野望を見抜いていない発言と言っていいでしょう。中国はこれから台湾を飲み込もうとしています。オオカミとライオンの関係が良ければ良いほど、ウサギは安全なのか。そんなことはあり得ません。
藤井:わははは。それはそうだ。
林:オオカミとライオンの関係が良ければ、どうやってウサギを料理するかを考えるだけであって、ウサギの立場がより安全になるということはない。逆にオオカミとライオンの関係が悪ければ悪いほど、要するにケンカしているわけですから、ウサギを晩御飯にしようという考えにはお互いに目が行かなくなる。そういうときこそ、台湾はある意味で安全な状態を保つことができるのではないでしょうか。台湾にとってアメリカはライオンではなく、番犬です。番犬がオオカミと仲良くなれば、本来の自分の務めを忘れてしまうかもしれません。だから番犬がオオカミと仲良くなってはいけないということです。
藤井:そうですね。
林:番犬の唯一の任務は、オオカミの野望を見抜き、ウサギを保護すること。今の流れを考慮すれば、番犬とオオカミの関係が悪ければ悪いほど、ウサギは安全だということです。
藤井:そうですね。ちょっと思い出したことがあります。昔の政治家に椎名悦三郎というおもしろい方がいらっしゃいました。椎名さんは息子さんも日米関係で活躍されました。
林:息子さんは椎名素夫さんですね。
藤井:そうです。椎名悦三郎は自民党の副総裁をやったほか、小さな派閥のトップを務めていました。彼は「派閥は20人か30人ぐらいがいい」とおもしろいことを言っていました。この人は陽気な寝業師という異名があって、永田町のなかで権力ブローカーとして活躍していた人です。旧内務省出身の官僚の方だったと思います。それで椎名悦三郎は安保保証論議のときに日米関係について「アメリカは番犬だ」と言ったんだよね。
林:まさに番犬です。
藤井:そうしたら、おもしろいことに野党の議員が怒って、普段は反米の野党議員が「アメリカに失礼じゃないか」と言ったわけです。
林:わははは。
藤井:椎名悦三郎は人を食ったような人で、彼は「失礼しました。言い直します。番犬様です」と言った。
林:わははは。
藤井:わははは。これは事の本質を突いていますよ。
林:はい。
藤井:根はナショナリストで、そういうことを躊躇なく発言するというのはたいした人物だなと感心しました。「アメリカが強ければ利用すればいい」というような考えの持ち主です。それをちょっと思い出しました。アメリカは番犬様です。
林:なるほど。まさにアメリカは台湾の番犬様です。
藤井:番犬様です。様を付けましょう。
林:はい。長いスパンのなかで、パラダイムシフトのなかで、文明の衝突のなかで台湾は明らかに西側陣営の一員です。中国の野蛮な文明の一員ではない。日本もそうだと思います。例えば中間選挙後に中国とアメリカとの戦いがいよいよ激しくなれば、台湾はその影響をもろに受けます。だけれども、僕はいい方向に進むと考えています。再度ケビン・マッカーシーの話に戻りますが、彼は7月に駐米代表の蕭美琴(しょうびきん)と対談しました。
藤井:蕭美琴さん。
林:その対談のなかで彼は台湾との関係について5点の事柄に言及しています。1点目は「アメリカにとって台湾を支持することが最大の利益」と言いました。安全保障の観点からすれば、アメリカの唯一かつ最大の敵は中国ですから、台湾を支持することがアメリカの利益に繋がることは当然です。2点目は「台湾への武器の売却はこれからも増やさなければいけない」と発言しました。これも台湾を守るという意味になります。3点目は「これから台湾をRIMPAC(リムパック)に参加させなければいけない」と指摘しました。RIMPACとは環太平洋軍事演習のことです。数年前まで中国もこの演習に参加していました。
藤井:そうなんですよ。
林:はい。
藤井:私も「何なんだ」と思っていました。
林:泥棒対策をやろうというときに、泥棒も参加していて、その話を聞いていたということです。アメリカにもだらしない部分がありますが、これはある意味で自信過剰と言ってもいいと思います。
藤井:それはいかにも自信過剰だと思います。彼らは中国を参加させておいて「俺たちの実力を見せつけてやろう」と言っていたのは昔の話です。おそらく情報も盗まれていたでしょう。
林:そうですね。
藤井:泥棒が犯罪防止の訓練大会に出てきて、こんなことをやっているんだと見ていたわけです。これは逆効果もいいところですよ。今は中国が来なくなって、本当に良かったと思っています。
林:アメリカの最も悪いところは、中国の軍人をわざとアメリカで訓練させるということにも表れていると思います。
藤井:そうそう。
林:アメリカの強ささえ知れば中国はビビってしまうだろうという考えは、非常にナイーブだと思います。彼らは中国人の考えをまったく理解していない。
藤井:全然分かっていないよね。
林:中国人は情報を盗みに来ただけです。中国人はこれからアメリカと対峙していくうえで同じような強さを持つためにはどうすればいいのかということを考えています。
藤井:そうですね。
林:彼らはビビッて帰るのではなく、盗んで帰るだけだということです。中国人は基本的に泥棒です。泥棒を参加させたうえで泥棒対策をやろうというのが、アメリカ人の考えでした。しかし今後は泥棒を排除して、まともな台湾をRAMPACに加えます。なぜなら台湾が泥棒対策の最前線に立っているからです。
藤井:台湾は最前線の国ですからね。
林:最も有能な人間を入れないで、泥棒を入れるというのは何事かと言いたい。だから3点目はRIMPACに台湾を参加させるということです。4点目、対談が行なわれた7月はナンシー・ペロシがまだ台湾訪問していなかったときですが、彼はその時点で「ナンシー・ペロシの台湾訪問を支持する」と言い、5点目「もし自分が下院議長になったら、必ず下院議長の身分で台湾を訪問する」と発言しています。それでは、今回の中間選挙の結果がどうなったかというと、親台湾派のほとんどが当選しました。
藤井:なるほど。それは良かった。
林:しかも民主党、共和党にかかわらず、台湾訪問を決行した国会議員はほとんどが当選しています。一方、親台湾派で落選したのはわずかです。しかも落選したのは台湾とは関係のない理由であって、選挙区の再分割など別の理由で落選しています。しかし親台湾派がほとんど当選しているということは物凄く大きい。そこで僕が気になっていることは台湾政策法が今後どうなるかということです。
藤井:国防権限法と一緒に通すんでしたっけ。
林:台湾政策法そのものは間に合わないということで、安全保障に関係する一部分だけ切り離して、国防権限法のなかに加えるということをやろうとしています。これは決定事項です。もちろん2023年の国防権限法はまだ国会を通過していませんが、これは確実に通さなければいけない法案です。
藤井:必ず通さなければいけない法律ですね。
林:台湾政策法案が最初に提出されたのは上院の外交委員会です。そのときは台湾に5年間で45億ドルの軍事支援をするという内容でした。それから共和党主導で下院に出されたときには、軍事援助の額が65億ドルに増えていました。
藤井:そうですね。増えましたよね。
林:それで今回の国防権限法のなかに加えるという形で出されたものでは、その額が100億ドルに増額されていたわけです。
藤井:ドンと増えましたよね。
林:100億ドルというのは、日本円にすれば1兆4000億円です。それだけの軍事援助を台湾に拠出するということです。台湾重視の姿勢は明らかだと思います。
藤井:はい。
林:さらにそれ以外にも不測の事態に備え、インドパシフィックで軍事備蓄することが盛り込まれました。名前はAsia Pacific regional contingency stockpileです。
藤井:あー。Stockpileですね。
林:要するに毎年5億ドル分の武器弾薬など、前線に必要な物資を備蓄するということになります。では、Asia Pacific regional、アジアパシフィック地域で最も危険なところはどこでしょうか。それは台湾ではないかと思います。ですから先ほどの台湾への資金供給に加え、毎年5億ドル分の武器弾薬をそちらに備蓄していく可能性が高まっています。これも今回の2023年の国防権限法のなかに盛り込んでいるということです。では、それでTaiwan Policy Act、台湾政策法が消えるかというと、そのまま消える可能性は基本的にはないと僕は考えています。つまり今期の国会が2023年1月3日に終わることから今国会の会期中におそらく間に合わないだろうと思われています。これから感謝祭やクリスマスの休日が控えています。もちろん間に合う可能性もわずかにありますが、おそらく間に合わないということで、こういう形になったのではないでしょうか。万が一審議が間に合わない場合でも、台湾政策法がそのまま消えるということは基本的にはないと考えています。
藤井:はい。
林:台湾政策法はおそらく再度提出されるでしょう。しかも今回の台湾政策法は民主党と共和党の超党派で上院に出されたた法案です。
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