中国がスパイ気球を飛ばした理由

台湾

藤井:それではBセクションに進みます。なぜ中国がスパイ気球を飛ばしたのかは分からないところがありますが、ここら辺をずばり語っていただけると我々の目が開かれるのではないかと思います。レジュメを見ただけで、すごい話しが出てきそうな予感がありました。林さん、よろしくお願いします。

林:世界が関心を持っているのは、なぜ中国がスパイ気球を飛ばしたのかに加え、習近平があのタイミングでスパイ気球を飛ばす計画を知っていたのかどうかではないでしょうか。

藤井:そうですね。

林:実は、その問いに中国は自ら答えています。

藤井:おー。

林:アメリカ国防総省が2月2日に気球の存在を公表しました。その直後、中国外交部は「気球は不可抗力で、たまたまアメリカの領空に入ってしまった」と説明しています。

藤井:「たまたま入っちゃった」と説明しているんですか。

林:これが非常に興味深いところで、この不可抗力という答えには2通りの解釈があるだろうと僕は考えています。一つ目の解釈は風に吹かれ不可抗力でアメリカの領空に入ったということですが、これは明らかに違うでしょう。なぜなら気球はプロペラを使って方向転換できるからです。さらに自爆装置も搭載されていて、いつでも自爆させることできるからです。

藤井:なるほど。自爆装置ですか。

林:それが計画されていないことだったら爆発させればいい。つまり、この不可抗力には他の解釈が存在するということではないでしょうか。それは何かというと、習近平の力が及ばないところで気球が飛ばされていたという不可抗力。要するに習近平にとっての不可抗力だったという意味です。

藤井:なるほど。

林:軍が勝手に動いたという意味での不可抗力だったと言い換えてもいいでしょう。習近平本人はこれを認めるわけにはいかない。

藤井:もちろん。

林:習近平が「俺の知らないところで誰かがやった」と言えば、彼の威信はたちまち地に落ちるでしょう。第20回共産党大会の後、建前上は彼がすべてを掌握していて、彼の命令で共産党も人民解放軍も動くような体制が敷かれました。特に軍は軍事委員会の意見を聞かなければならず、その軍事委員会の主席は習近平です。今回の気球がもし不可抗力だったとすれば、習近平の知らないところで軍が勝手に動いていたということになります。

藤井:はい。

林:気球に関しては三つの可能性が考えられます。一つ目は習近平の指示だった可能性ですが、気球事件前後の動きを見ていると考えにくいと思います。なぜなら中国はアメリカに融和的な姿勢を送ろうとしていました。その裏で挑発行為に出るということですから、いくら習近平とはいえ、そこまでのバカではないでしょう。二つ目は習近平が「やれ」と指示しておいたことを忘れてしまったという可能性です。これもちょっと考えにくい。昨年11月のG20で中国はアメリカと「ケンカはやめようぜ。ちょっとだけ握手しよう」と手を結んでいたのではないかと考えられています。要するに外交上の重要な時期だったことは間違いない。上の人間から以前にそのような指示を出されていたとはいえ、11月の米中の動きを察して、気球の担当者は「今はやめたほうがいいですか」とお伺いを立てたでしょう。もしかしたら「飛ばしても発見されないから大丈夫」と指示された可能性もありますが、普通に考えれば11月以降はそこまで挑発する必要は何もなかったと僕は考えています。

藤井:はい。

林:今回の気球は明らかに肉眼で見えるような高度に下げているじゃないですか。2万メートルや3万メートルの高度だったら発見されなかったのに、6000メートルぐらいの高度を飛んでいた。そして一般のアメリカ国民に写真まで撮られてしまった。そうすると、残りの三つ目の可能性に絞られます。それは、軍の人たちがこのタイミングで気球をわざと飛ばしたという可能性です。もちろん習近平は気球計画の存在を知っていたでしょう。しかしながらこのタイミングで気球を飛ばすことは知らなかった。これが習近平にとっての不可抗力です。

藤井:なるほど。

林:要するに彼は軍を掌握できていなかったということです。このようなことは実際に起こり得ることなのか。実は前例があります。

藤井:おー。

林:習近平は2012年に総書記に選ばれると、2013年には国家主席に就任しています。そして2013年から反腐敗運動を始め、物凄いスピードで権力基盤を固めていきました。その後、習近平は2014年9月にインドを訪問しています。その際にはモディ首相と12項目の協定を結び、なんと200億ドルのインフラ整備のための投資協定を締結しました。ところが彼のインド訪問中、中国の軍が挑発したことをきっかけに中印国境で武力衝突が起こります。そのときモディ首相は「どういうことなのか」と問いただしましたが、当時の習近平はなぜ武力衝突が起きてしまったのか本当に知らなかった。当時から習近平政権の権力基盤は安泰のように見えていましたが、この前例からも分かるように、実際には軍がインドとの協力関係をわざと邪魔するような事例が起きていたということです。

藤井:はい。

林:インドに好意を示すために200億ドルの資金を持っていったのに、自らの意思でぶち壊すなんていうことはあり得ないじゃないですか。200億ドルがパーになってしまいますよ。そしてインドからは感謝されない。これは明らかに軍が習近平を邪魔したということでしょう。

藤井:ええ。

林:なぜ中国がこんなに愚かなことを繰り返すのか。結論からいえば、習近平の知らないところで軍が勝手に動いているからです。

藤井:習近平は知らなかった。

林:今回の気球に関しては僕が勝手に「習近平は知らなかった」と言っているのではなく、2月17日のニューヨークタイムスの座談会でコリン・カール国防副長官が同じことを発言しています。彼は「習近平は気球の行方を知らなかった。おそらく習近平は軍とのあいだで連携が上手く取れていない。習近平は軍を信用していないし、軍もまた習近平を信用していない」と指摘しています。

藤井:うんうん。

林:彼はアメリカの国防副長官です。もちろん出任せを言っているとは思えません。アメリカと一口に言っても、それぞれの部門で考え方はやはり違います。国務省よりも国防総省のほうが真面目で誠実だと僕は考えています。そして中国に関する情報という観点では国防総省のほうが正しいと僕は見ています。なぜなら国防総省というのは必死だからです。

藤井:はい。

林:もちろん国防総省の副長官ということはバイデン政権の一員ですから、彼も「習近平本人はそんなに責任ないよ」というように世論をトーンダウンさせたかったのかもしれない。しかし彼は「習近平と軍は互いに信用していない」と指摘して、もう一つの現実にも言及しています。ある意味、習近平は外部から思われているほどの統率力を必ずしも持っていないと言いたかったのではないでしょうか。

藤井:なるほど。

林:そういったことを考えると、この不可抗力というのは気球にとっての不可抗力ではなく、まさに習近平にとっての不可抗力だったということになろうかと思います。さて、習近平は自分の一存だけで軍隊を動かせるのでしょうか。今回の気球事件はそれを示すための一つの判断材料を提供してくれました。

藤井:なるほど。習近平と軍のあいだに相互不信があるということですか。

林:相互不信。

藤井:これは大事なポイントだと思います。

林:そうですね。しかも現職の国防副長官がつい最近、マスコミでその相互不信を語っていた。これは非常に重みのある言葉だと思います。

藤井:そうすると軍は習近平の対米和解が望ましくないと思い、これを潰してやろうという思惑があったということですか。

林:はい。米中関係が良好になれば、軍の必要性は低下します。

藤井:そういうことですね。

林:はい。中国にとってインドも敵には違いないと思いますが、最大の敵はアメリカでしょう。今までの何年間かは軍事予算が2ケタの伸び率で成長してきました。最近でも7%の伸びを示しています。緊張が存在するからこそ、軍事予算が増額されてきた。アメリカと戦わないのであれば、軍は縮小せざるを得ないでしょう。もちろん中国の軍はアメリカとは戦いたくないと考えているはずです。戦いたくないけど、融和もしたくないというのが本音でしょう。戦争は嫌なんです。平和も嫌なんですよ。

藤井:自分たちの予算を増やしたい。

林:そうですね。中国の軍はとても扱いにくい存在です。戦争にならないところまで緊張を高めておきたいというのが彼らの狙いでしょう。

藤井:緊張を高めて、自分たちの利権を増やすということですか。

林:そうです。習近平政権がアメリカに融和姿勢を示すことによって「これからは経済重視だから軍事予算は削らなければいけない」という議論が出てくるかもしれないじゃないですか。今、中国では医療保険の問題で抗議が盛んに行なわれています。また失業も増えています。さらに給料をカットされた公務員すら抗議している状況です。習近平が「こちらが抑えきれないぞ」と思えば、もしかしたら軍に矛先が向き「しばらく戦争はないから、軍は我慢してくれ」と言い出しかねない。

藤井:なるほど。

林:軍の幹部たちは20人から30人の愛人を抱えていますが、1人当たり、月100万円ぐらい支給すればいいというものじゃない。中国の愛人はそんなに安くないわけです。不動産を1軒や2軒ぐらい買い与えるぐらいでは足りない。彼女たちは「5軒や10軒は家を買ってくれ」と平気な顔で要求してきますよ。軍の上層部の人たちは大変です。愛人が20人も30人もいれば、体力のみならず、それなりの経済力も必要でしょう。だから軍事費を増やしてくれないと自分たちが立ち行かなくなってしまうと考えています。

藤井:なるほど。

林:また最近は中国が軍艦をバンバン造っているじゃないですか。もうすでに400隻ぐらい保有していて、アメリカの270隻を優に超えています。そして軍艦を造るたびに上層部はいろんな賄賂を懐に入れています。軍艦を発注するときに、いくら、いくら、いくら。新しい武器を生産するときにも、いくら、いくら、いくら。外部から買うときにも、もちろんコミッションを受け取っています。彼らはいくらでも武器や弾薬を増やし続けたいと考えていますよ。

藤井:なるほど。

林:さらに武器弾薬は横流しすることも可能です。中国の軍は拳銃など小さなものをヤクザに売り、戦闘機や戦車など大きなものを小国に売って稼いでいます。だから軍に売れないものはないとさえ言われています。中国の軍はかつて商売にも熱心でした。胡錦涛時代はホテルやレストランのほか、売春宿まで経営していて、物凄く繁盛していました。なぜかというと、軍経営の売春宿には警察が入れないからです。

藤井:入れないですよね。

林:だから一般人は軍経営のホテルやレストラン、売春宿で大いに消費していました。

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