中間選挙後のアメリカと中国

台湾

藤井:それでは本日の第3セクションです。今度は主に林さんにお話しいただきます。テーマは『アメリカ中間選挙後の米国とチャイナの関係』ということで、米中関係について説明していただきたいと思います。

林:はい。アメリカと中国の関係は中間選挙によって、変わるもの、変わらないもの、両方があると思います。中間選挙がどんな結果になったとしても、構造的部分は絶対に変わらないでしょう。我々は3年近く前からずっと言ってきましたが、パラダイムシフトが起きたということです。一つのパラダイムというのはだいたい30年前後は続くもので、そのあいだにどんなことが起きたとしても、基本的な構造自体は変わりません。例えば40年前にどのようなパラダイムシフトがあったのかというと、アメリカが中国に接近したという変化です。たとえどんなことがあったとしても、アメリカの中国接近という構造は変わらないということです。例えば2001年のブッシュジュニア政権のときに海南島付近で米中の飛行機の接触事故がありました。

藤井:確かにありました。

林:一触即発という状態だったと思います。しかしそれから20年が経ちますが、米中接近というパラダイムの全体的な流れはそんなに変わりません。今のパラダイムはトランプ政権のときに始まったものになりますが、そのパラダイムはこれから30年から40年ぐらいは続くでしょう。これは、まさに文明の衝突と言ってもいい。『文明の衝突』という有名な本があります。本のなかでは基本的にキリスト教文明とイスラム教文明の衝突が中心に書かれていますが、僕に言わせれば、今回の米中対立はまさに文明の衝突です。中国文明と民主社会文明という、二つの文明の衝突だと思います。これがどれくらい続くのかを考える際に、十字軍の遠征を考えればいいのではないでしょうか。十字軍の遠征というのは、まさにキリスト教文明とイスラム教文明との衝突です。

藤井:はい。

林:3回の十字軍遠征によって、その衝突は100年も続きました。文明の衝突がどこまで続くのかというと、決着が付かないかぎりは続くと思ったほうがいい。なぜ今までこういう対立がなかったかというと、中国文明と西側文明はお互いに融和的にやっていけると思っていたからです。中国は西側の技術とか、いろんなものを吸収したかった。たとえ共産党政権だとしても、江沢民時代、胡錦涛時代には実際にいろんな人間をアメリカに送り出していました。例えばアメリカのハーバード大学には有名なアッシュセンターがあります。アッシュセンターは年間数百万ドルの資金を中国から寄付してもらい、中国共産党の幹部を養成してきました。中国はある意味でアメリカから一生懸命に学んできたわけです。必ずしもハイテク分野だけではなく、制度的な部分や経済的な部分についても一生懸命に学ぼうという姿勢がありました。ただし習近平政権になってからは、その姿勢に変化が見られます。彼は偉大なる中華民族の復興という名の下に、東昇西降ということを考えています。東の中国が昇り、西側の文明が沈んでいくと本気で考えています。先ほどの対談でも言ったように、今の中国は自分たちの制度的優位性を殊更に強調しています。彼らは「中国は世界最大の民主国家だ」と自称していて、習近平は中国的民主という言葉を使っていますが、あくまで中国式の民主であって、西側の民主制度とは似て非なるものです。習近平は今回100%の賛成票を得て、3期目続投が決まりました。得票率100%というのは、明らかに私たちが考える民主制度ではないでしょう。

藤井:口を挟んで悪いんですが、ソ連が生まれ、ソ連が第2次大戦後、東ヨーロッパ全部を占領して衛星国にしたときに人民民主主義という言葉が流行りました。

林:そうですね。

藤井:ソ連は「俺たちも民主主義だ」と主張しました。自由じゃないけど、民主主義の頭に人民を付けた。共産党が統制している民主主義とは何なのか。共産党が統制ということであれば、そもそも民主主義ではない。だけど、そういう言葉がまことしやかに流布して、日本のマスコミは「人民民主主義のほうが西側の民主主義より進んでいる」と言ったわけです。

林:そうですね。我々が「専制政治だ」と批判すると、彼らは「いや、我々は人民専制主義なんだ」と返してきました。「だから、どこが悪いんだ」という開き直りです。人民がトップになっていれば、何でもいいというのが彼らの考え方です。だから習近平政権が続くかぎり、場合によって共産党政権が続くかぎり、これからも絶対に変わらない。例えば韜光養晦(とうこうようかい)という言葉があります。どういう意味かというと、能ある鷹は爪を隠すという言葉と同じ意味になります。その爪がなくなるわけではなく、隠し持っているだけです。

藤井:隠し持って、磨いておくわけだ。

林:そうですね。いざというときだけ、その爪を使う。ただし習近平になってからは、その爪を隠す必要はないと思っています。だから共産党政権が続くかぎり、文明の衝突は必ず起こります。もちろん文明の衝突というのはいきなり起こるわけではなく、その前に少なくとも二つのステップがあると考えられます。最初はこちらのほうが優れていて、向こうもそちらの方が優れていると思っている。もちろんアメリカあるいは日本や台湾も含めて、西側の我々は人類普遍の価値観というものを大事にしています。一方、人類普遍の価値観は中国では通用しない。我々は人類共通の価値観が中国の価値観より劣っているという考えは持っていないわけですが、それと同時に中国共産党政権も偉大なる中華民族の復興が人類共通の価値観より劣っているとは考えていない。だから最初のステップとしては、お互いに絶対に譲歩しないというところから衝突は始まります。2番目、譲歩しない場合、最終的には競争になります。バイデン大統領も「これから激しい競争になる」と発言しました。激しい競争というのは、文化あるいは経済、社会制度だけにとどまらず、最終的には軍備競争に行き着くでしょう。冷静時代もそうですが、軍備競争のない競争は存在しない。冷戦時代はイデオロギーの競争というのが根底にあったものの、最終的には軍拡競争が繰り広げられました。この競争の行き着く先は衝突です。その衝突も軍事衝突までいくということです。例えば片方が「もう負けた」と敗北を認めれば競争は終わりますが、どちらかが「もう負けた」と認めないかぎりは、競争は絶対に続けられます。競争が続くかぎり、衝突は不可避でしょう。どちらか片方が崩壊しないかぎり、競争は終わらない。ソ連が崩壊して初めて冷戦が終結したように、米中のどちらかが崩壊しないかぎりは、競争は終わらないということです。ボクシングに例えると、3分間はボクシングをやって、1分間の休憩に入ります。休憩なしで12ラウンド戦い続けるボクシングというのは基本的には存在しません。そんなことをすれば、両方が倒れてしまうからです。

藤井:なるほど。

林:今回の米中首脳会談の話し合いは3時間10分に及びました。

藤井:結構長かった。

林:長時間の話し合いが行なわれました。しかも今回は同時通訳ですから、半分の時間ではなく、3時間10分、すべての時間を使っています。米中が長い会談のなかで何を話し合ったかというと、僕は「1分間、休憩しようぜ」という内容だったのではないかと考えています。

藤井:なるほど。それはおもしろい。

林:もうクタクタで、両方ともくたびれているわけですよ。

藤井:なるほど。

林:今後戦わないという意味ではなく、アメリカも中国も「この辺で1分間だけ休憩しようか」ということだろうと思います。

藤井:なるほど。

林:バイデン政権にしても、習近平政権にしても、そのように考えているのではないでしょうか。習近平政権が1分間だけでも休憩したいという証拠はどこにあるかということですが、実はこういう会談の場合は会談が終わった時点ですべて明らかになることは基本的にほとんどないと思います。会談に参加する人間は米中ともに9人ずつ。さらにすべての参加者の背後にはいろんな案を作成する秘書が控えています。他にもコピーを取ったり、資料を探したりする人もいますから、関わった人間はおそらく数百人に上るのではないでしょうか。そしてそういう人たちから後日リークされるということがよくあります。つい最近の11月21日のウォールストリートジャーナルの記事ですが、そこにMorefar Projectというプロジェクトが存在していると書かれていました。実は米中首脳会談直前の11月10日から11日の2日間、Morefarというところで会談が行なわれたそうです。これをセットしたのは、モーリス・グリーンバーグ。97歳のおじいさんで、ウォールストリートの保険関係の人物です。モーリス・グリーンバーグは中国政府から●【14:32】と認定されている中国ブローカーで、要するにキッシンジャーのような人物と考えていいでしょう。

藤井:確かブッシュファミリーにも近い人物ですよね。

林:そうです。

藤井:ブッシュジュニアのときに大スポンサーになっていました。

林:はい。かなりの金持ちです。Morefarでの会談にはお互いに13人ずつが出席しました。中国側は人民外交学会という名目で、アメリカを訪問しています。アメリカ側の13人のなかで比較的有名なのは、元駐中国大使のマックス・ボーカスです。彼は民主党で上院議員も長いあいだ務めていた人物です。もう1人はアイオワ州の州知事のテリー・ブランスタッドです。トランプ政権時代の駐中国大使です。それからマイク・マレン海軍大将。一方で中国側は誰が出席したかというと、現駐米大使の崔天凱(さいてんがい)です。そして中国商務部の前部長の陳徳銘(ちんとくんめい)。それ以外にもいろんな人間が出てきて、全部で13名が出席しました。安全保障問題をはじめ、台湾問題、経済問題、貿易問題などについて話し合いが行なわれたと聞いています。その内容はモーリス・グリーンバーグから会談後すぐにバイデン政権に伝えられました。つまり「ちょっとだけケンカをやめよう」ということなんです。

藤井:はい。

林:もちろん中国人がやっていることですから、これ自体がウソの可能性もあります。そういうふうに信じ込ませたいというだけでやっていることも考えられます。デカップリングしたくないとか、ハイテク製品の貿易の制裁を解除してほしいとか、そういうことが話し合われたのではないかと思います。

藤井:あれは効きますからね。

林:ええ。その代わりに、台湾問題、ウクライナ問題、北朝鮮問題で協力してあげるというような約束があったのではないでしょうか。台湾問題に関しては軍人の恫喝を少し緩めるとか、そのような内容が話し合われたのではないかと考えられます。これはウォールストリートジャーナルに詳しく書かれています。中国の意図が本当かどうかは別として、実際に中国主導でニューヨークに13名の人間を派遣したということです。

藤井:なるほど。

林:米中会談前にバイデン政権に一つのメッセージを送ろうとした。これは100%の事実です。

藤井:そうですね。

林:もし制裁を解除してくれれば、こっちのほうで協力してあげるというメッセージを伝えたことも本当だろうと思います。ただし解除した場合に本当に協力するかどうか、これはおそらくウソではないかと思います。バイデン・習近平の会談では台湾問題、貿易問題、北朝鮮問題、ウクライナ問題、人権問題の5項目で話し合いが行なわれました。激しいやり取りがあったと聞いています。しかしこれらのすべての分野について「今は休憩しようぜ」ということが話し合われたのではないかと思います。

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