盧沙野大使、ありがとう

台湾

台湾ボイスの皆様、こんにちは。林建良でございます。4月21日に中国の駐仏大使である盧沙野はフランスのテレビインタビューを受けて、彼の発言によってかなり世界中が大騒ぎになりました。日本のマスコミも結構詳しく、彼の発言を報道しています。もう数日経っているわけですから、その発言の真意とその発言による影響をここで皆さんと一緒に考えてみたいと思います。そしてこの発言は台湾にとって非常にありがたいことです。4月9日のマクロン大統領の発言と同じくらいの効果があったのではないか。もしくはそれ以上の効果があったかもしれません。一台湾人としては非常に感謝しているわけです。

では彼は一体何を言って、どんなことで大騒ぎになったのか。実は今回、彼の発言の焦点は台湾問題だけではなくて、ヨーロッパ問題も提起したわけです。だからもちろんそのヨーロッパ全体は、もうカンカンになっているわけです。マクロン大統領のときはまだ少数ながらほぼごく一部の人間、例えば中国は彼の肩を持っていました。今回の盧沙野の発言は、全世界に彼の肩を持つ存在は1つもありません。1つもありませんというのはつまり中国も含めてということです。では彼がいったいどのような発言をして、それほど大きなインパクトを全世界に与えたかというと、彼は実はインタビューの中で、ウクライナのクリミア半島の所属に関して聞かれたわけです。司会者が「クリミア半島はウクライナの一部か」と聞いた時に、彼は「これは一言ではちょっと簡単に答えられない」と答えた。え? 一言で簡単に答えられない? イエスかノーかのどちらかだけでしょう? 彼はこう言っています。「歴史的にはクリミア半島は実はロシアの一部だった。ソ連時代にフルシチョフがそれをウクライナの領土にした」。ところが、「旧ソ連諸国は今言った一主権国家としての地位があるかどうかというのは、それに関する国際的合意が存在しない」と彼が言ったのです。つまり、旧ソ連諸国とはどの国か。旧ソ連諸国とはもちろんロシアもその中の一部です。ウクライナもその中の一部です。旧ソ連諸国は全でしたが、ソ連崩壊の後がばらばらになって全部で15の国になりました。それが、ロシアも含めて15の国の主権国家としての地位について国際社会の合意ができていないというならば、つまりウクライナも主権独立国家ではない。プラスロシアも含めてです。それはもちろん当事者はカンカンですよ。ウクライナももちろんのことですけれど、バルト3国もカンカンです。すぐに中国大使を呼びつけて、どういうことなんだと問い詰めたわけです。これはもう全世界のこの常識をひっくり返したということです。この15の旧ソ連諸国の国々は全部国連のメンバー国です。しかも中国はその国々と外交関係を結んでいるわけです。しかし、この盧沙野が「それは合意ができていない」と言った。つまり暗にこの主権を認めないということです。クリミア半島がウクライナの一部であるかどうか以前に、ウクライナの国そのものの主権を認めないという意味です。

その発言のすぐ後、4月23日に欧州議会の80名の議員が連名でル・モンドというフランスで一番大きな新聞に公開書簡を出しました。「これは我々の欧州のパートナー国の安全に対して脅威となる発言だった」と非難しました。もちろんでしょう。彼らの欧州諸国のパートナーとは何か。例えばバルト3国とか東ヨーロッパの国々、ウクライナも含めてです。これらの国々の主権を認めないのであれば、それはもう侵略していいということになるわけです。だからこの80名の欧州議会の議員は、この盧沙野をフランスの歓迎されざる人間として指定しなさいと、つまりペルソナ・ノン・グラータ(Persona non grata)です。ペルソナ・ノン・グラータに指定しなさい。つまりもう退去させなさいという意味です。そういうふうに要求しました。それと同時に実は欧州理事会の議長であるシャルル・ミシェルは、今回、6月にEUサミットをやるわけですけども、そのEUサミットの中でEUの対中国の外交関係をちょっと再検討すると言いました。つまり、今までのヨーロッパはちょっと親中国すぎる。これからちょっと関係を見直そうという意味です。すごい影響があったわけです。ところがこのインタビューは実は全部で50分もあります。テレビインタビューとしては結構長い方です。50分のインタビューの中でウクライナ問題に言及したのは恐らく5分の1ぐらいでしょう。それ以外の5分の4は何に関するインタビューかというと、基本的には台湾に関してです。要はポイントは台湾なのです。

マクロン大統領の発言の後、フランスのマスコミが一番注目している問題とは何か。台湾問題です。ずっと冷めてないのです。あらゆるマスコミが台湾問題を提起したりして、台湾問題はこの2週間の間は、恐らくほとんどのフランス人はかなり勉強しました。テレビとか新聞とか雑誌とか全部台湾問題を取り上げているわけです。だからこのインタビューも実は最初から台湾問題です。一番冒頭でこの司会者は中国の台湾周辺での演習のことを提起しました。しかも中国政府が作った動画をそのまま放映したのです。どういう動画かというと、中国がミサイルを発射して台湾にミサイルを撃ち込んみ、そして台湾のあちこちで爆発が起きたというものです。そのシーンはフランスのテレビ局が作ったものではなく、中国政府が作った宣伝の動画です。そしてその司会者が「台湾にミサイルを実際に撃ち込んだりして、これは台湾に対する挑発ではないんでしょうか」と聞いたら、今度この盧沙野は「いえ、我々は台湾を脅かしていない。逆に我々は台湾に脅かされているんだ」と言うのです。台湾に脅かされているのです。そして、「いや、これは実は台湾の独立勢力、あるいはその独立勢力を支持する西側の諸国によって我々が脅かされているんだ」と言うのです。つまり戸締まりをしようとすると、今度「これは泥棒に対する挑発だ」というような理屈です。そしてこの司会者もこの問題についてはあまり深く追わなかったのですが、その次に「では、この台湾人の運命は台湾人自身が決めるべきではないんでしょうか。これこそ民族の自決権ではないでしょうか」と聞いたところ、この盧沙野は「いや、そうじゃない。台湾の運命は全部の中国人が決めるべきだ」と答えました。我々は運命は自分で決めてはいけないということで、中国人に決めてもらわなきゃいけない。まあ、ここはちょっとこの台湾人としては本当に笑える論調です。だって中国人自身が中国の運命さえも決められないのに、我々台湾の運命を決めてくれるということは、まあ本当に大きなお世話です。そして司会者はまた聞くのです。「では、武力を使ってでもですか」と聞いたら、この盧沙野は「全ての手段を使って」ということなのです。「全ての手段を使って台湾を併合する」という意味です。これは恐らく西側陣営の人間からすれば非常に常識外れの発言です。

何で中国の外交官はこんなに常識外れの発言をするのか。インタビューの後半ではそれからもういろいろ毛沢東のこととか天安門事件のこととか、あるいはウイグルの人権問題とかをいろいろ言ったりしてです。するとこの盧沙野は、「あれは全部デマだ」と、「お前は勉強しているのか」と、もう途中でキレてしまったのです。しかしその司会者はいたって冷静だったのです。微笑みながら聞いていたわけです。そして最後に彼が出した問題とは、「では、あなたは西側陣営が衰退していると思いますか」と。つまり習近平のいわゆる東昇西降です。東が昇って西が落ちるということ。盧沙野はどうこたえたかというと、「今のあんたたちの状況を見ればわかるんでしょ」と、暗にそうだと言っている。まあ、「そうだ」とは言わないですけれども、「今の状況で見ればわかるんじゃないんですか。今のこんな状態で。少なくとも西側は上昇はしていない」と言ったのです。これでこの習近平の東昇西降の思想がやっぱり外交政策に転じていると分かるわけです。ではこの盧沙野の発言は、本当に自分の考えなのか。実はその翌日、中国の外交部はこの発言を否定はしていないけれども、しかし逆の意味で火消しをしているのです。「いやいや我々は旧ソ連諸国の主権を認めている」と言って、さらに4月24日に中国の駐フランス大使館は「これは大使の個人的見解」という弁解をしたのです。しかし実はこの中国の駐フランス大使館は、このインタビューの直後にすぐにこのインタビューの全部の内容をフランス語と中国語の両方をホームページに載せたわけです。つまり、この騒ぎがなければ、これはそもそも中国政府の外交方針だということなのです。認めているわけです。なぜかというと、このようなインタビューは質問は必ず事前に出すわけです。事前に出して、このような質問をしたいと、いかがですかと、お互いに了承のもとでインタビューをするわけですけれども。しかし、この司会者は非常に頭がよくて、例えば事前の打ち合わせがあってもやっぱりいざとなると、いろんな言葉の内容は違ってくるわけです。この司会者は、ちょっとしたミスにすぐに突っ込むタイプなんですけども。つまりこのインタビューは、事前に収録して放送するものではなくて、実は生放送なのです。そうなると、この盧沙野の発言は本当に個人的見解なのか。この中国の駐フランス大使館が出した声明として、本当にその個人的見解なのか。実は駐フランス中国大使館は、このインタビューを直後に掲載してその後は取り消したんですけれども、この動きから見ればこの発言ではまずいと中国政府もそう思っている。実際はウクライナ問題になると、やっぱりヨーロッパが物凄く敏感ですから。今までウクライナにしてもヨーロッパにしても、ウクライナの大統領のゼレンスキーは早く習近平と電話会談をしたい、あるいは面会したい、あるいは訪問したいと(求めてきた)。

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