中国外交の行方

台湾

藤井:それでは3番目のCセクション『チャイナ外交の行方』に入っていきたいと思います。イギリスのマンチェスターで領事館暴行事件という露骨な事件が発生しました。3期目に入った習近平政権はどうなっていくのでしょうか。林さん、ずばり予測をお願いします。

林:中国外交の行方ですが、マンチェスターで10月16日に起きた領事館暴行事件に象徴的に表れていると思います。領事館暴行事件は、20名から30名のイギリス在住の香港人が第20回共産党大会の初日に合わせて中国総領事館の前でデモをやっていたことが発端です。総領事館の人間はなぜデモにそこまで怒ったのでしょうか。彼らは事件後のインタビューに「我々の指導者を侮辱したから」と答えています。香港人たちが指導者をどうやって侮辱したかということですが、彼らは1枚の風刺絵を持っていて、それを総領事館の前に立てていました。その風刺絵には、鏡を見ている裸の習近平の姿が描かれていました。鏡に映っている人物がきれいな服を着て王様の王冠をかぶっている一方、鏡の前に立っている人間は裸だったわけです。つまり裸の王様という意味です。習近平は裸の王様だという風刺絵が掲げられていたら、さすがに中国総領事館の外交官たちは排除するために行動せざるを得ません。なぜならマスコミに風刺絵が撮られ、いずれは習近平の目に入るからです。

藤井:なるほど。

林:もし行動を起こさなかった場合、自分たちの首が飛ぶ可能性があるかもしれない。一方で行動すれば、一つのチャンスになるかもしれないと思ったに違いない。彼らは過激に行動すればするほど、習近平の目に留まりやすいということを知っています。

藤井:そうか。

林:もし習近平の目に留まれば、出世の道が開かれるかもしれないと考えたかもしれません。一つの例として挙げられるのは、戦狼外交の代表的人物である中国外交部の報道官である趙立堅(ちょうりつけん)です。

藤井:ええ。

林:趙立堅はパキスタンの中国大使館の外交官をやっていましたが、そんな彼がなぜ有名になったのかというと、外国のマスコミが中国批判するたびにTwitterで過激な言葉を使いながら頻繁に噛みついていたからです。過激に行動すれば出世するということを体現した人物です。

藤井:なるほど。

林:その意味で外交官たちにとって、行動しなければ自分の身が危険、行動すればチャンスということが念頭にあったのは間違いないと思います。たとえ外国の法律を破ったとしても、できるだけ過激に行動したほうがいい。それこそが習近平に対する忠誠心の一つの表れになると考えたのでしょう。

藤井:なるほど。

林:中国の外交官の養成というのは非常に厳しいことで知られています。厳しいというのは悪い意味ではなく、彼ら外交官はエリートコースを歩み、外交官としてのあるべき知識を身に付いているということです。中国は以前から国としてはダメですが、外交はピカイチです。彼らは人心掌握術に物凄く長けていて、人をどうやって買収するか、恫喝するか、交渉するかということを心得ています。中国には天才的なペテン師が多く、人を騙すことに関してはすべてにおいて長けています。そういう中国の外交官ですから、外国でのこのような行動が中国の評判が傷つけるということを知っていながら、やっています。要するにリーダーである習近平の好みに合わせてやっているということです。その最もいい例が、胡錦涛時代に日本の中国大使を務めた王毅ではないでしょうか。王毅が駐日中国大使を務めていた期間に過激な戦狼外交が行なわれたことはなく、彼は常識の範囲内で職務に当たっていたと思います。ところが習近平時代に入ると、王毅は戦狼外交の代表的人物として注目を集めました。

藤井:そうですね。

林:王毅の前任者で、その上司だった楊潔篪(ようけっち)も同様です。アメリカ大使館勤務が長かった楊潔篪は知米派で、アメリカにとって評判のいい外交官だったわけです。要するにアメリカや西洋人の礼儀作法をきちんと身に付けているような、外交官らしい外交官だったということです。しかし習近平2期目のアラスカ会談で分かるように、彼はそのとき戦狼外交そのもののような激しい口調で外交官らしくない言葉を使い、相手を攻撃するようなことをやったわけです。だから今回のマンチェスター領事館暴行事件でも分かるように、暴行であろうが、何であろうが、基本的に外国の法律を破っても構わないと考えている節があり、要するに自分さえ安全で出世できればそれでいいということです。だから今回のような暴行事件が第20回共産党大会に合わせて発生したということは、これからの習近平率いる中国外交がこのような方向で動いていくということを象徴的に示しているのではないかと思います。

藤井:そうですね。趙立堅も楊潔篪もその辺のことを分かっていながら、やっているということですね。楊潔篪はいかにも老練な外交官だったわけですが、最近の日本の俗な言葉を借りるとすれば、突然キレキャラに変わったという印象があります。

林:わははは。

藤井:わざとキレる姿を人前で見せるわけです。そうすれば、習近平に「あいつ、よくやっているじゃないか」というふうに喜ばれることを知っているということか。

林:そうです。

藤井:これはキレキャラ外交だね。

林:だから彼らは外交をやっているというより、習近平にいかに忠誠を誓うかということに重きを置いている。実際に習近平はこれを見て喜んでいます。

藤井:なるほど。

林: 習近平は今回の政治演説のなかで「偉大なる中華民族の尊厳を守らなければいけない」と強調しています。偉大なる中華民族の尊厳です。彼はそのために闘争精神を発揮しなければいけないと言っています。

藤井:なるほど。

林:実は今回の演説では安全が最も強調されていましたが、安全の次に強調されていたのが闘争です。

藤井:闘争ですか。

林:安全を強調したうえで闘争のことも強調しているということは、不安で不安でしょうがないけど、戦わなければいけないということを示しているのではないでしょうか。僕には、まさに怯えている野獣にしか見えない。闘争精神が強調されるということであれば、外交官はこれから闘争精神を見せなければいけないということ。彼がなぜ闘争を強調しているかというと、闘争しないと自分の尊厳が守れないと考えているからです。だから外交官は習近平から「攻撃一辺倒にやれ」という指令を出されているということだろうと思います。

藤井:なるほど。

林:軍隊に例えれば、司令官が「進め。絶対に後退するな」と言っているようなものです。軍隊は進攻する場合もあれば、後退する場合もあり、後退イコール失敗ということにはならない。攻撃一辺倒が最もいい命令ということではないでしょう。例えば第2次世界大戦中にチャーチルは総勢30万人から40万人のイギリス軍をフランスのダンケルクから撤退させています。しかしダンケルクの撤退があったからこそ、イギリスはその後、ドイツと戦うことができたと言ってもいいでしょう。一方の習近平は撤退イコール軟弱というふうに考えています。攻撃することこそ、闘争精神があって、偉大なる中華民族の尊厳を守ってくれるということであれば、中国はこれから外国と付き合う際に外交官だけではなく、中国全体として外国に対して対決姿勢で臨まなければいけないということです。どんな譲歩でも、どんな撤退でも、習近平に失敗と解釈されるということであれば、妥協すらできない。妥協できないということは、交渉は強気一辺倒になります。しかし交渉の際に相手を圧倒するだけでいいのかといえば、決してそうではない。交渉というのは自分のペースで進める場合もあれば、妥協する場合もあり、最終的には互いに譲り合うことも必要になってきます。「こういうところは譲ってもいいが、こういうところは絶対に譲れない」というように調整しながら、交渉というのは成立していくものです。最初から絶対に1歩も引かないという強気一辺倒の姿勢しか許されないのであれば、中国外交の行方は明らかでしょう。

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