日本を取り巻く情勢と日本の対応

台湾

藤井:それでは第2セクションに進みたいと思います。このセクションでは世界を鳥観図的に見たときに、どういうふうに動いているのかということを考えていきたい。そして今の現実に合わせて修正する必要があると思っています。世界の構造自体が変化しているため、私自身が以前に発言したことと現時点で言っていることに違いがあるかもしれません。そこら辺をまとめてみたいと考えています。そして国際社会のなかで台湾や日本がどういう位置付けになっているかという、大きな枠組みの部分というか、そういう話をしたいと思います。私はこんなふうに考えていますという図を四つぐらい見せますが、最初は江沢民や胡錦涛の時代、それから習近平も初期ぐらいはこんな感じだったんじゃないかと考えています。要するにチャイナ、中国共産党と無国籍なグローバリズムです。無国籍資本と考えてもいいでしょう。最も分かりやすいのは金融資本ですが、最近だとGAFAなど無国籍情報資本とも連携していて、チャイナ世界の工場だという位置付けになっていました。この関係が典型的だったのは、習近平がダボス会議でしゃべっていたときですよ。

林:はい。

藤井:チャイナはああいう人たちとお友だちだということです。この人たちはチャイナ国内の民主化などということには口を出しません。ウイグル人をどうしようが、チベット人を弾圧しようが、知ったことじゃないというスタンスを貫いてきました。自分たちの下請けとして働いてくれれば、それ相応の範囲のことは認めますよということだったわけです。ところがウクライナ戦争が起きて、それから習近平が3期目に入ってからは、こういったことが変わってきたという話をしたいと思っています。ここが連携していたということです。それに対して、先進国のデモクラシー、特に草の根保守のナショナリズムというのは、こちらと対立しています。こっちは先進国のなかの支配層といいますか、超富裕層とか、そういった人たちです。これが対立しているというのが事の本質だというのが、ちょっと前までの世界の構造だったと思います。

林:はい。

藤井:特にウクライナ戦争後は、それが三つ巴の戦いになってきたんじゃないかというのが私の考えです。どういうことかというと、民主国家の我々からすれば、近代の代議政治を基にした国民の生活を第1にするような、そういう民主国家の政治というもの。これが民主国家のナショナリズムです。それと対立しているのが、無国籍的なグローバリズムです。国際的な富裕層や無国籍企業はタックスヘイブンを利用していて、どんなに儲けても先進国でも発展途上国でも税金は払わないという、ひどいことをやっています。これが今のグローバリズムの主流になります。

林:はい。

藤井:だからグローバリズムと言ったって、いろんな定義があります。例えば「我々人類は運命共同体だ」。そういう意味でのグローバリズムは正しいと思います。

林:はい。

藤井:宇宙の彼方から惑星がやってきて、地球にぶつかっちゃったら人類は一瞬で滅びちゃう。だから「地球上の生命は全部一体のものだ。我々人類は兄弟だ」。それは正しいですよ。だけど、そうじゃなくて、金儲けするための無国籍的なグローバリズムの人たちの考え通りにやっていると、国家が消滅して、市場、マーケットしか残らない。彼らは国家なんかないほうがいいと考えています。税金を取られるから国家は嫌なんです。マーケットだけがあればいいじゃないかという考え方ですよ。

林:はい。

藤井:それで、この派の考え方は我々と同じ。国民が国家を作って、そのなかでは最低限の平等という要素があり、資本主義が行き過ぎないようにブレーキを踏みながらバランスを上手く取っていくという考え方。それに対して、まったく違った考えの専制独裁国家。チャイナ、ロシア、北朝鮮、それから今でいうとイランなんかもそうでしょう。社会主義という言い方を使ってもいいでしょうけど、これらの国は統制経済をやっています。だから専制独裁国家群と、それから「民主的国家のナショナリズムを大事にしていきましょう」という考え方、それから「いや、国家なんて邪魔だ。こっちも邪魔だけど、こっちも邪魔だ。国家は要らない。マーケットだけがあればいい」というのが、三つに分離してきたと考えています。

林:はい。

藤井:だからダボス会議の人たちが習近平と仲良くする時代じゃなくなってきたということです。習近平さんはこっちのほうに軸足を移した。こっちのほうに行っていると、結局のところ、国内で江沢民派にまた政権を奪われてしまうと考えたのではないでしょうか。

林:はい。

藤井:「江沢民や胡錦涛の時代に戻れば、俺の力はなくなる。だから俺は毛沢東主義に戻って、鎖国主義、再社会主義化の路線を歩むんだ。そうしたら自分の政治権力を確固たるものにでき、生涯現役で独裁者を続けられる」という習近平と、グローバリストが分かれてきた。特にウクライナ戦争では習近平がプーチンの側に付いたわけです。

林:そうですね。

藤井:これによって、明確になってきたということだと思います。ウクライナ戦争以前、プーチンはイタリア元首相のベルルスコーニさんと仲が良かった。なぜかというと、2人ともアンチグローバリズムだったからです。

林:なるほど。

藤井:アンチグローバリストだから、その点では「ロシアのナショナリズムも認める。その代わり、イタリアのナショナリズムも認めてくれ」というところで話が通じやすかったこともあって、プーチンはヨーロッパの右寄りの人たちと割と仲が良かった。ウクライナ戦争が起きる以前は、アンチグローバリズムという点においてフランス国民戦線のルペンさんとも仲が良かったと思います。ところがウクライナ戦争後はロシアが隣国を侵略するような国になってしまったために、ヨーロッパ諸国にはそういうことも言っていられなくなったという事情があると思います。一方で習近平はヨーロッパとは違い、明からにプーチン側に付いた。

林:はい。

藤井:だから今は三つ巴の争いになっているのではないかと私は考えています。大雑把にいえば、こういうふうに考えるべきじゃないかというふうに思っています。

林:なるほど。

藤井:トランプがやっているMAGA運動というのは、我々が守らなければいけない、我々が望んでいるようなことをアメリカでやっている運動だからこそ、私は親近感を感じています。私は民主主義という言葉を使いませんが、民主国家というのは資本主義と民主政治のコンビネーションで構成されています。しかしながら、本来これらは矛盾するものです。なぜかというと、資本主義を放置すれば貧富の差がどんどん広がっていく。それを国民平等の観点から是正するために、民主政治、デモクラシーがあると思っていて、矛盾しているからこそ、価値があると思っています。資本主義と民主政治の組み合わせがいいのではないかというのが、我々が歴史から得た教訓ではないでしょうか。

林:はい。

藤井:こっちの人は民主国家を廃止して、キャピタリズムだけを純粋に発展させたいと考えています。ジョージ・ソロスさんはそういう考え方の持ち主でしょう。それに対して「デモクラシーも、グローバル資本主義も嫌だ」という考え方でやっていこうとしているのが、こっちの考え方です。チャイナ、ロシア、北朝鮮、イラン、シリア、キューバ、シリア、そういう人たちがいるわけです。これは近代以前の古代の独裁国家と何ら変わらない。私が林さんの前で台湾のことに触れるのは口幅ったいのですが、台湾の民主化運動というのは台湾のナショナリズム運動であり、台湾ナショナリズムが民主化運動という形を取って結実してきたものだと考えています。だから民主化とナショナリズムは一体です。民進党が与党になっていますが、民主化を進めるという点においてはプログレッシブな運動であり、同時にナショナリズムの運動であると思っています。

林:はい。

藤井:日本人には、これが分かりにくい。

林:はい。

藤井:なぜかというと、日本の知識人【9:01】というのは、進歩派というのはだいたいがグローバリストじゃないかと考えているからです。

林:そうですね。

藤井:台湾はそうじゃない。台湾のナショナリズムは、国民党が持ち込んだチャイナナショナリズムとの戦いだということです。

林:それは非常に分かりやすい説明です。

藤井:国民党と一緒に来た人たちも含めて新台湾人であり、新台湾主義のナショナリズムだということです。民主化運動をナショナリズム運動として発展させたというのが李登輝先生が活眼であり、偉いところだったと思っています。単なるナショナリズム運動でもなく、単なる民主化運動でもない。民主化運動の中身がナショナリズム運動だったということではないでしょうか。

林:はい。

藤井:ひまわり学生運動なんかにも非常によく表れていたことだと思います。一方、日本の学生運動といえば左翼運動しかなかった。

林:そうですね。

藤井:左翼運動というのはマルクス・レーニン主義のグローバリストですから、台湾のそれとは全然違います。

林:そうですね。

藤井:台湾のような学生運動が日本で起きたことはない。

林:そうですね。藤井さんのこの辺の説明は非常に分かりやすいと思います。分かりやすいというより、藤井さんのような説明を今まであまり聞いたことがありません。李登輝さんは台湾ナショナリズムを決して強調しなかったわけです。

藤井:そうです。彼は言わなかった。

林:彼が主張していたのは民主化だけ。なぜかというと、彼がチャイナナショナリズムを標榜する国民党に所属していたからです。

藤井:そうですね。こっち側ですからね。

林:彼がチャイナナショナリズムの国民党のなかでやれるのは民主化運動だけだった。しかし彼の民主化運動の中身は決して民主化だけではなく、中国と戦おうという台湾ナショナリズムも含まれていました。先ほど藤井さんが日本やアメリカの左翼のことに言及していましたが、実は台湾社会は左派の社会であり、民進党は左派政党です。それに加え、いわゆるグリーンと言われている緑の党も時代力量も左派政党です。要するに今現在の台湾ナショナリズム運動の中心勢力、特に若者を中心とした勢力はみんな左派です。台湾の現政権にはオードリー・タンという性転換者の閣僚がいるじゃないですか。このように、実は台湾には左派かつナショナリズムという人たちがいます。これは、今現在において台湾にしか存在していないのではないでしょうか。アメリカの左派はだいたい無国籍で、グローバリズムを追求しています。

藤井:そうですね。

林:台湾の左派はそうじゃない。反核とか、グリーンエネルギーとか、男女平等とか、労働者重視とか、イデオロギー的には左派と言えるでしょう。今現在の台湾の若者の主流は、このように左派かつナショナリズム的な考えを持っています。このような現象は、世界中で台湾以外には存在していないと思います。

藤井:そうですよね。

林:他方、安全保障の面において台湾の若者たちは自分の国を自分で守らなければならないと考えています。いざというときには銃を持って戦わなければいけないという気持ちを持っています。日本人が考える左派のイメージは反戦ですが、そのイメージとは程遠いのではないかと思います。

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