中国情勢の回顧と展望

台湾

藤井:それでは今日の第3セクションを始めます。『中国情勢の回顧と展望』ということで、林さんにお願いします。

林:はい。日本では毎年、清水寺で今年の漢字が発表されます。今の中国を一つの言葉で表現するとすれば、それは戦争の戦です。そして来年の中国を表す漢字は病気の病だと思います。

藤井:病ですか。

林:病です。

藤井:病(やまい)ですね。

林:そうです。病(やまい)です。だから今日は『病む中国』というテーマでお話ししたいと思います。現在進行中で起きていることが、まさに『病む中国』だからです。2022年を振り返ってみて中国で起きた最も大きな出来事といえば、習近平の3期目続投が決定したことだと思います。そして習近平の3期目スタートで何が起きたのか。第20回共産党大会の閉会式で胡錦涛前国家主席が会場から摘まみ出されたことが象徴的だったのではないでしょうか。このワンシーンがいったいどのようなことを意味するのかを見極めることが重要です。その瞬間、習近平も含めた全員が無表情だった。特に共産党青年団、団派の人たちは本当に凍りついたような感じさえ見受けられました。

藤井:李克強は完全に凍っていました。

林:そうです。李克強も、胡春華(こしゅんか)も、汪洋(おうよう)も凍りついていました。その瞬間、習近平が中国共産党を完全に制圧したかのように見えました。彼の最大の敵は江沢民派と団派です。例えば江沢民派の番頭の曽慶紅(そけいこう)も最前列に座っていました。そして胡錦涛以外に、団派では李克強、温家宝(おんかほう)が最前列に座っていました。温家宝は胡錦涛時代に首相を務めた人物です。汪洋も最前列にいました。そして将来のホープと期待されていた胡春華も座っていました。

藤井:汪洋と胡春華もいましたね。

林:全員が怯えているような表情を浮かべていたのが印象的です。誰もが習近平が完全勝利した瞬間だったと感じたのではないでしょうか。

藤井:はい。

林:その瞬間に僕が何を考えたのかというと、習近平はほぼ全員を敵に回したなと思ったわけです。

藤井:なるほど。

林:自分たちのトップリーダーだった胡錦涛を極めて侮辱的なやり方で強制的に退場させた。これは胡錦涛に対する侮辱だけではなく、団派もしくは江沢民派に対しても「俺に反対する人間はこういう顛末を迎えるぞ」ということを見せつけた格好です。いわば見せしめです。誰もが、その瞬間こそ、習近平が権力の頂点にあったと感じたことでしょう。

藤井:はい。

林:しかし僕は違うことを考えていました。その瞬間に習近平が自分の落とし穴を大きく掘ったと思ったわけです。

藤井:なるほど。

林:その瞬間が決して習近平の権力の頂点ではなかったと僕は考えているからです。習近平の権力の頂点は、その5年前、2017年の第19回共産党大会に遡ります。2期目の続投が決まったとき、確かに習近平は大きな支持を得ていました。習近平は1期目で反腐敗運動を展開しました。敵を弾圧したうえ、牢屋に入れ、彼は無敵の存在になったと言えます。しかも当時の習近平には有力な盟友が傍にいました。王岐山(おうきざん)です。

藤井:王岐山ですね。

林:彼が権力の頂点から転がり始めたのは2018年3月です。2017年から2018年3月はみんなが習近平万歳で、彼は絶頂期を迎えていました。党内にも、国民にも、実際に彼に心服している人たちは多かったと思います。ところが彼は2018年3月の全国人民代表大会のなかで憲法改正を強行しました。そのなかで国家主席の任期は最長2期までという制限を撤廃してしまいます。そのときから「おまえは皇帝になろうとしているのか。終身制をやろうとしているのか」との疑念を芽生えます。党内はもとより、国内あるいは海外も含め、習近平が3期目を狙っているということが懸念され始めました。それを境に彼を支持してきた勢力が反旗を翻します。ところが彼はその頃までには権力をほぼ手中に収めていて、反旗を翻した人間はことごとく牢屋に入れられました。後に孫陸軍(そんりくぐん)【7:35】らが習近平を暗殺しようという動きも出てきます。そういう意味で、習近平の権力の頂点というのは実際には2017年秋だったと僕は考えています。

藤井:なるほど。

林:みんなが3期目を望んでいたとしたら、2017年と同様にみんなが明るい表情で「中国の未来を任せられるのは習近平しかいない」と拍手喝采していたでしょう。しかしながら今回3期目が決まったときにそのような様子はまったく見られなかったと言ってもいい。喜んでいる国民は誰もいないのではないでしょうか。

藤井:なるほど。

林:それと今回のテーマである『病む中国』がどのように関係するのか説明したいと思います。武漢コロナは実際には2019年12月に確認されていますが、2020年に始まったということにしておきましょう。習近平は3年間のゼロコロナ対策で国を疲弊させました。中国はずっと病んでいるような状態を続けてきたわけです。ところが2022年12月に突然すべての制限を撤廃してしまいます。この先どのようなことが起きるのかというと、共振現象が出てきてしまうのではないかというのが僕は予想です。これまでは普通の小波(さざなみ)すら許さないという形で、3年間も波を抑えてきました。要するにすべての水が流れないように徹底的に堰き止めていたということです。それを12月1日からいきなり開放してしまった。共振現象とは何かというと、要するに堰き止めていた波を一気に開放すると振幅が大幅になり、小波だったものが津波になってしまうということです。これにより、中国では間違いなく医療崩壊が起きるでしょう。実際に北京では医療崩壊がもうすでに起きています。医療崩壊でコロナに罹った人たちが病院に通えないだけであればまだしも、病気を抱えた人たちがたくさんいます。ガンを患っている人たちもたくさんいます。さらに交通事故でケガを負ってしまう人たちもいます。医療崩壊というのは、そういう人たちが病院にかかれなくなるということです。コロナに罹った人たちに加え、治療さえ施せば助かったはずの人たちが死んでしまうことを意味します。そして医療崩壊の後は、必ず社会崩壊に繋がっていきます。

藤井:はい。

林:なぜ医者にかかれないのか。今まで堰き止めてきた水を一気に開放すれば、津波がやってきて、医療全体が崩壊してしまうからです。そして社会崩壊が進めば、今度は政権に対する信頼崩壊に繋がっていくでしょう。不満は必ずしも医療やコロナ対策だけに限らず、今現在は火葬場に対する不満が頂点に達しています。

藤井:おー。

林:中国の火葬場には以前の10倍の死体が運び込まれていて、今までより日本円で50万円ぐらいプラスの利用料を支払わないと火葬できないというのが実情です。そうすると、こういうところに必ず腐敗が生じてきます。それに対して、また不満が出てくるわけです。一方で今は薬局に行っても、薬がない。コロナ禍の3年間、例えばおじいさんが熱を出したときには医者にかかれず、薬局で熱冷ましを買って、それで我慢していました。ところが今は熱冷ましを買うと、健康コードがイエローになってしまいます。要するに「おまえには何かの症状があるから熱冷ましを買っている」と判断されるわけです。そういうことで、薬局は売れない熱冷ましを置かなくなりました。また中国は世界最大の熱冷ましの生産国ですが、売れないために生産工場が倒産してしまうというケースも相次いでいます。ところが今まさに薬局にみんなが殺到しています。それにも不満が溜まっています。このような不満は医療や火葬場だけではなく、これからあらゆるところで連鎖的に社会現象になっていって、不満の共振現象が起きるのではないかと思います。この共振現象は巨大な破壊力を持っています。今回の措置によって、ゼロコロナ対策からコロナ・ウェルカム対策に変わっていくでしょう。

藤井:はい。

林:そして習近平政権はできるだけ早く感染させろという指示を出しています。しかし習近平は第20回共産党大会で団派の人たちを敵に回したツケを払わなければならないでしょう。習近平の命令は紙の文書ではなく、電話などを使って口頭で伝達されています。これは中国共産党が批判されるような政策を実行するときに証拠を残さないためによく使う手法です。

藤井:おー。

林:例えば僕が藤井さんに「藤井さん、これをやってくださいよ」と伝えます。藤井さんはカケ【16:37】に「カケ【16:38】、これをやってくださいよ」と伝えます。カケ【16:39】はまた誰かに「これをやってください」と伝えるとしましょう。最初は僕が「藤井さん、これをちょっとだけ少し緩めてください」と伝えます。そうすると藤井さんはカケ【16:50】に「これをちょっと緩めてください」と言います。今度はカケ【16:57】がもう1人の誰かに「完全に緩めなさい」と伝達してしまうわけです。紙ではなく、口伝えだから証拠が残らない。だから上から下まで伝わっていくときに命令そのものがまるで違うものになってしまうことは多いと思います。しかも下の人たちは習近平の足を引っ張ろうとしています。今回の疫病が爆発的な感染になっていくだろうと僕が考える理由の一つに、習近平が今回の措置ですべて開放しただけではなく、下の人たちの不作為が感染爆発を引き起こすだろうと考えているからです。要するに爆発的に感染が広がっているなかで中国の人民に「これはこういうふうにこうしなさい」とか、「これをやめなさい」とか、習近平の指示がまったく伝わっていないことが理由の一つに挙げられると思います。習近平は12月26日に今回のコロナについて初めて談話を発表しました。彼はそのなかで「みんなで衛生習慣を良くしましょう。文明的で健康的な生活をしましょう」と発言しました。これが彼の指示です。

藤井:はい。

林:このような指示はまったく意味を成さないと思います。内部文書によると1日3700万人の感染状況ということになっていますが、実際にはもうすでに2億5000万人ぐらいが感染しているとされています。

藤井:2億5000万人ですか。

林:中国の衛生関係のトップは1か月以内に60%の人間に感染すると予想しています。60%はおよそ8億人に相当します。そして最終的には80%から90%の人間が感染することになるでしょう。では、ピークはいつ頃になるのか。中国では確かに2020年に武漢で感染がかなり広がりました。ただし中国では今まで全国的な感染拡大はなかったと言えます。だから中国にとって今回が実質的な第1波となります。

藤井:実質上の第1波ということですか。

林:そうですね。第1波のピークがいつ頃なのかというと、おそらく旧正月になるのではないかと考えています。

藤井:おー。

林:今はまだピークではなく、ピークは旧正月です。なぜかというと、旧正月には民族大移動が起きるからです。旧正月以降に中国でどんなことが起こるのか。今までの感染拡大は北京、上海、広州、天津など大都市が中心でした。しかし春節以降は都市部から農村部に移っていくのではないかと思います。

藤井:なるほど。

林:旧正月は1月22日から。それ以降はどんどん農村部に波及していくでしょう。農村部に移っていくと、死亡率が増えていくことが予想されます。なぜなら農村部には医療機関が少なく、それらの医療機関は都市部よりも遅れています。さらに高齢者が非常に多い。これが1点目です。

藤井:それは最悪ですね。

林:2点目です。これはおそらく全世界と関連していますが、農村部で1月末から2月頃に感染が拡大すると、農作物の作付け時期と重なります。そうなれば、夏に収穫する食料の作付けができなくなってしまいます。世界最大の食料消費国の中国で食料が生産できないとなれば、中国は世界中から買い集めるでしょう。そうなったときには中国国内が食糧危機に陥るだけではなく、世界的な食糧危機に波及する可能性があるということです。ですから、今回の感染ピークによる社会共振現象によって、これから中国では政権が危うくなるかもしれないと僕は考えています。

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