国民党副主席の中国訪問・その背後

台湾

台湾の野党・国民党の副主席である夏立言は外交官僚の出身です。彼は2月8日から2月17日まで10日間の予定で中国を訪問しに行きました。この時期にいったい何のために中国を訪問するのでしょうか。彼が中国を訪問するのにはもう1つ、中国が彼を呼びつけたという意味もあります。でも実際、国民党側も中国を訪問したいわけですから、思惑としては一致していると思います。しかしなぜこの時期に?この時期というのは、1月28日から中国のスパイ気球がアメリカのアラスカに入って、大騒ぎになっているわけです。アメリカ全体としては反中国的な雰囲気がかなり高まっている状態。なぜ敢えてこの時期を選んで中国を訪問するのか。実はこの夏立言は去年の8月10日にも中国を訪問していました。8月10日とはどういう日かというと、ちょうどアメリカの当時のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問して、台湾を出た直後に中国が軍事演習をしました。8月10日は軍事演習の最中だったのです。軍事演習の最中に敢えて国民党の副主席が中国を訪問したわけです。この時期について考える場合、国民党の中国訪問は台湾の中の雰囲気、そしてアメリカ全体としての雰囲気とちょうど逆行するような形で、中国を訪問していました。ですから国民党側が中国を訪問したいというよりは、中国が敢えてこの時期に国民党側を呼びつけたと判断した方が正しいと思います。

では中国の思惑とは何か。実は夏立言は今回の中国訪問で、宋濤と会いました。宋濤とは新しい台湾弁公室の主任です。日本語で主任と見ると、なんとなくランクが低いように見えますけれど、実は閣僚級です。つまり台湾に関する事務全部についての窓口です。国として、中央として台湾弁公室がありますけれども、実は各地にも台湾弁公室が存在します。台湾弁公室の役割は対台湾工作です。要はいかに台湾に影響力を行使するか。しかし今までの台湾弁公室の一番主な役割とは台湾企業の面倒を見ることです。台湾企業の面倒をどうやって見ているのか。台湾企業が中国に投資しに行く場合、いろいろな煩雑な法律やルールがあります。窓口の台湾弁公室を通せば、台湾弁公室からの圧力で「台湾企業だからちょっと面倒見なさい」と中国の地方官僚に言ってくれる。そのような手段で台湾企業、台商を籠絡するという役割です。しかし宋濤は共産党内での地位は決して高くはありません。宋濤の前の仕事は中国共産党の対外連絡部の部長です。中国共産党とほかの国の政党、特に共産党を中心とする政党と中国共産党の連絡の役割をこの宋濤が担っていました。しかしもう1つ、隠れた身分があります。宋濤は表向き外交官僚のように見えますが、実は中国の特務です。特務が台湾弁公室の主任になっていて、党内のポスト、地位は決して高くはない。なぜなら、今までの台湾弁公室の主任は少なくとも中国共産党の中の中央委員でした。中国共産党の中の200名ほどの中央委員は、中国の権力構造の中のトップの200名です。だから地方に非常に発言力があります。この企業をこういうふうに面倒を見なさい、とかです。ところが党内の地位がそれほど高くない場合、彼の主な仕事は中国に投資している台湾企業の面倒を見るのではなく、特務出身の彼としては、いかにして台湾の内部に手を突っ込むかということが、主な仕事ではないかと思います。これはまさに習近平の3期目の対台湾工作の1つの大きな方針転換です。

宋濤は夏立言と会ったときにこう発言しました。「我々は1つの中国の原則の中で92年のコンセンサスを堅持していく」つまり「1つの中国」は話し合いの前提だ、これを認めなければ話し合いはない。そして中国にとっての92年のコンセンサスというのはどういう意味かというと、中国は1つである、台湾は中国の一部である、そして台湾と中国のこれからの関係は1国2制度のもとで統一する。国民党は台湾の中で92コンセンサスはこのように解釈している。国民党内部における解釈は、中国は1つであると、国民党としてはこれを認めている。しかし中国の解釈はそれぞれが解釈する。つまり、中国とは何か。中華民国なのか、中華人民共和国なのか、その解釈はそれぞれ自分で解釈する。これが国民党の言い分です。しかし国民党は中国の中では決してこのことは言えないわけですから、中国に行って、中国の言う92コンセンサスを認めるという形になる。つまり1国2制度で統一する。そして宋濤の言った2点目とは何か。「これから台湾の有識者と相談して、これからどうやって統一するか具体的に相談していく」ということ。それは国民党の人間を見つけて、これから具体的にどうやって台湾を併合するかという話になるわけですから。つまり国民党を中国共産党の台湾併合の手先にしようとしているわけです。実際手先になっているわけですけれども。3番目は台湾の各領域、全ての部分ですね、例えば教育、企業、宗教、文化団体とか、全ての領域とこれから融合していく。融合とは呑み込んでいくということです。つまりこの宋濤の発言というのは、まさに習近平の3期目の思惑そのものです。

翌日、2月10日に今度、夏立言は人民大会堂で王滬寧に会いました。王滬寧はもちろんランクが宋濤よりもずっと高いです。彼は7名の政治局常務委員の1人でランクとしては4番目、この王滬寧はこれから3月の全人代の後は、恐らく中国の政治協商大会会議の主席になる。その政治協商大会というのは、もう1つの仕事があるのですけれども、対台湾工作小組の副組長に就任します。これはヤクザのようなポストで、中国では習近平政権になってからいろいろな小組を作りました。それで自分(習近平)が組長、まさにヤクザのボスです。それでこの対台湾工作小組というのはつまり対台湾工作の一番トップです。台湾弁公室よりも上です。その名目上の責任者は習近平。全ての小組の組長はみんな習近平ですから。実際、実質的に主導しているのは副組長です。王滬寧が対台湾工作小組の副組長にする予定です。だから彼がある意味でこの対台湾工作の総責任者と言ってもいいのですけれども、2月10日に王滬寧がどのように発言したかと言うと、「我々は同時に台湾独立に反対だ。台湾独立と平和は水と火のような絶対相容れないものだ」と言っています。この話は実は国民党が同意しているわけです。自分の独立を否定するわけです。だから台湾独立は絶対反対というのは1点目になります。そして2点目は、「台湾同胞を団結させて祖国の統一に協力しましょう」ということです。祖国の統一。これもある意味で、内部から国民党に工作して、内部から統一しようということです。中国にとって一番コストの低い統一は、もちろん武力統一ではありません。武力統一はものすごくコストが高いわけです。一番簡単な統一は、統一派に政権を取らせて、統一協議を持ちかけ、統一協議をさせる。だから話し合いによって統一するというのは中国、習近平にとって、一番コストの低いものです。そして今現在可能性があるのは、やはり国民党に政権を取らせて、国民党が政権を取る前からいろいろ籠絡して、あるいは威嚇をして、あるいはいろいろなものを使って嵌めて、これから絶対に反対できないようにするというのが中国の思惑です。つまり中国の本音としての思惑とは3点あります。1点目は台湾の統一は特務政治によって、国民党を通じて台湾の内部に浸透して、台湾内部の拠点をたくさん作って、統一を謀る。併合を謀るということ。2番目は利権で親国民党の人間あるいは企業を釣る。つまり台湾に武力で侵攻するというより、金で台湾を買うということ。3点目はまさにこのタイミングです。アメリカと喧嘩しているとき、去年もそうですけれども、逆に台湾の最大野党を呼びつけて、台湾は決して親米ではない、台湾は親中だということを国際社会に宣伝する。台湾カードを切るというのが3点目です。

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