反スパイ法改正で見る習近平の野望

台湾

台湾ボイスの皆様、こんにちは、林建良でございます。4月26日に中国政府が、正しく言えば中国の全人代の常務委員会で、反スパイ法を改正しました。この新しい法の施行は7月1日からで、新しいスパイ法になるわけです。この反スパイ法の改正は日本のマスコミでもかなり報道されているわけですけれど、いったいこの法の改正はどんなインパクトがあって、なぜ改正したのか。そして、この新しい反スパイ法によってどのような影響があるか、ここで皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

実はこの中国のこの反スパイ法は2014年にすでにできているわけです。反スパイ法によってかなり数多くの中国にいる外国人が逮捕されているわけです。日本人だけでも2015年から2023年までに17名が逮捕されています。もちろん反スパイ法ということであれば、主に外国人が相手(摘発対象)です。あるいはこの外国人に協力している中国人を目標にしています。中国ではこの種の法律、国家安全に関する法律、スパイを摘発するような法律は多すぎるほどあります。日本では1本もありません。例えば中国では国家安全法があります。さらに香港版の国家安全法もあるわけです。2022年にできた法律です。そしてさらに中国では国家秘密保護法もあります。反スパイ法と似ている。さらに反国家分裂法もある。このような法律は大体似たり寄ったりです。

ではなぜこんなにいっぱい法律があるのに、また新しい法律、反スパイ法を改正しなくてはいけないのか。この反スパイ法の改正は主に3点の注目すべきところがあります。1点目はこの適用範囲が、今までの反スパイ法よりも拡大されているわけです。2点目はこの裁量権はもう極めて拡大しているわけです。そして、逆に曖昧にしているわけです。3点目はこの反スパイ法の改正によって、ほぼ国境なしで適用されると考えていいということ。まず、この適用範囲はどこまで拡大されているかというと、例えばスパイ組織、あるいはスパイ組織の代理人がその対象です。それだけではなくて、この外部組織というのは中国以外の組織機構もしくは個人も外部組織という解釈。そもそも非常に曖昧ですよ。例えば、会社だって組織です。そしてもちろん外国の政府関係だってそれは組織ですよ。あるいはNGO、NPO、慈善事業をやっているボランティア団体とかです。外国人がやっているものであれば全て外部組織です。そして個人も入っています。個人も入っているのであれば、まあ基本的にはこの全世界の人間が対象になるわけです。我々全ての人間がこの中国の反スパイ法の適用範囲に入るわけです。そして、どんな行為が反スパイ法に当たるかというと、中国の国家安全、あるいは中国の国家利益に関する全ての資料、文献、データなどもう極めて広い範囲です。

中国の国家安全に関するデータとは何か。例えば中国の人口が何億何人とか、これは向こうがこれは中国の国家安全に関わるものだといえば、スパイになるわけです。中国の軍事費は実はこうなんだと、中国の軍事力は実はこうなんだと、戦闘機が何機とか、ミサイルは何発とかです。これは中国にとってはもちろん、中国の国家安全に関すること、中国の国家利益です。例えば、これから中国の経済は決して良くないぞということを言ってしまうと、「いや我々は今、一生懸命外国の資本を誘致しているのに、これは中国の国家利益に反する言動だ」と。これも「スパイ」です。つまり、この定義がもう極めて広くて、極めて曖昧です。そしてこの裁量権は誰が判断するのか。この改正法によって、国が判断する、中国共産党が判断する、あるいは地方でも判断できる。何にしようとか、直轄市でも判断できる。自治区でも判断できる。まあ基本的にはこの国の権力者が、「スパイ」と言えばスパイということです。そして国境の区別はありません。例えば、「習近平は馬鹿だ」と日本で言うと中国にとっては「これはもう重大な国家秘密の漏洩だ」という罪に当たるわけです。日本で言ったことは彼らのこの反スパイ法の摘発の対象になるわけです。国境なしです。そもそも2020年の6月30日に施行されたいわゆる香港版の国家安全法の中にも、1項目が入っているわけです。つまりこの法律は中国の国家安全は国籍、場所も問わず、日本で中国の秘密を漏洩、あるいは中国の国家安全に違反すると判断されたら、もう罪です。日本人であろうがなかろうが、関係なく全世界に適用します。世界の70億人の人間に適用する法律は中国の中で何本もあるわけです。この法の改正によって彼らがどこまでできるかというと、例えば警察など中国当局の令状なしで個人もしくは企業の所有する電子機器を没収できるんです。コンピューターとか、個人のスマホも含めていろいろなデータを没収できます。そして彼らは令状なしで、個人もしくは企業、組織、外交官も含めて盗聴できるんです。電子メールも盗聴することができます。この法改正は非常に膨大なもので、曖昧な範囲の広いもので、一体何をやれば駄目なのか、何をやればいいのかは実は本当にわからないんです。今、中国の中に入っている外国人は全部でどのぐらいいるかというと、おおよそ120万です。その120万の中で一番多いのは実は台湾人です。台湾人はビジネスマン、プラスその家族も入ると大体今では60万から70万ぐらいではないかと思います。ビジネスマンだけでも大体常に40万人ぐらいいるわけです。人数としてはかなり多いわけです。日本人だって十何万人ぐらいいるわけです。だからこれは決して他人事ではありません。

この反スパイ法の改正案がもし施行されたら、どのような行為がこの新しい反スパイ法に当たるかと。台湾の政府機関である大陸委員会は7つの項目を恐らく新しい反スパイ法に当たるんじゃないかということで、台湾の国民にできるだけ避けるように呼びかけています。大陸委員会とは中国のことを所管する1つの部署です。この7項目の一番は例えば学術交流です。この大学があの大学に訪問しに行く。この交流の場合は当然お互いにいろいろな情報や意見を交換するわけです。この情報交換がスパイ法に当たるということです。そしてもちろん学術交流、学術研究の場合、フィールドリサーチする際に当然データを収集しに行くわけです。場合によってアンケート調査やインタビューをします。「あんたはこういうところの経済は今どうですか?」と聞けば、これもスパイ行為に当たる。だから1番目としては、この学術交流は極めて危険ということ。
2番目は中国の国営企業もしくは中国の政府関係者との交流です。普通なら、相手の政府関係者との交流ですから、ある意味で相手の政府が認めた上での交流です。政府が出てきて「これはスパイ行為」ということはないんじゃないか。実は台湾政府は、「いえ、そうではない。逆に中国の政府関係者もしくは中国の国営企業と交流した方が危険」と指摘している。彼らとの話の中で「今、我が政府がこういう方針で行く」とか「今、この企業は何をやっている」など、向こうから言ったことをこっちが聞くだけでスパイ法に違反するということです。こんな矛盾したことは普通の国ではあり得ません。中国は普通の国じゃないですからね。だから2番目は国営企業もしくは政府関係者との交流もこのスパイ法に当たる可能性があるということ。
3番目は撮影。撮影はあまり気楽にやらない方がいいと思います。特に港での撮影、もしくは軍事演習。軍事演習はわかりやすいですけれど、場合によって軍事車両、戦車が通ったりするとか日本ではそういう光景はあまり見られないと思います。しかし中国では普通の時でも、一般の街頭でも、戦車あるいは装甲車両、軍事車両が出てきたりするわけです。これはしょっちゅう日常的に見えるわけです。見えた時にパチっと写真を撮ったら、もうアウトだよね。ということで3番目は、写真はあまり勝手に撮ってはいけないということです。
4番目は、民主・人権・自由の理念はそこで宣伝してはいけない。中国だけではなくて外国での宣伝も駄目です。「民主がいいぞ」「中国はやっぱり民主化しなくてはいけない」とか「中国人の人権も大切」とか「ウイグル人の人権も大切」とかです。これは例えば日本で言って、今度中国に入国する際に、「あんたは日本でいついつこういうふうに言ったんじゃないか」と言われます。なぜかというと、中国に入国する際には、スマホがチェックされる可能性があります。そこで撮っている写真や映像でそういうそのものが出てきてしまうと、その場で拘束されてしまう可能性があります。ですから、民主と自由と民権の理念は、これから中国に入るのであれば、たとえ日本で言っても駄目ということです。中国で言うのはもっと駄目です。

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