人材を潰す

台湾

藤井:台湾ボイスの会員の皆さん、こんにちは。藤井厳喜です。本日も林建良さんとお届けいたします。林さん、よろしくお願いします。

林:よろしくお願いします。

藤井:習近平政権が3期目に突入して、そろそろちょうどいいタイミングではないかと考え、今日は『習近平の功績を語る』というタイトルで話を進めていきたいと思います。この功績には皮肉な意味も込められていて、どちらかというと習近平政権には罪のほうが多く、功罪を語るといったタイトルのほうが正確かもしれません。習近平本人が何を考えているかはともかく、3期目を迎えた彼は有能な官僚たちを排除していき、自分の周りに政策をきちんと実行できるような人材が誰もいないという体制を築き上げました。彼がドジな路線を歩んでくれたおかげで、台湾や日本をはじめ、その他の自由主義諸国には大変ありがたい状況になってきたのではないかと考えています。それで今日も四つのセクションに分けて、第1セクションのAでは『人材を潰す』というテーマで、林さんに詳しく解説していただきたいと思っています。

林:はい。分かりました。その前に、中国が昔から周辺国にとって非常に厄介な存在だったことを説明しておきましょう。なぜ厄介だったかというと、中国が弱体化するときには大量の難民が周辺国に出ていく一方、強大化したときには周辺国への侵略を繰り返してきた過去があるからです。弱くなっても、強くなっても、外に拡散していくということが歴史上ずっと繰り返されてきました。悪性のがん細胞みたいな存在です。中国が侵略と略奪を始めるとき、それは決まって中国が強国になった時代でした。ところが、そういった歴史上の繰り返しを誰かが止めてくれるかもしれないという期待感が今まさに高まっています。だから今日はそれを止めてくれるかもしれない、あの人の功績を語っていきましょう。

藤井:お願いします。

林:『人材を潰す』というテーマですが、人材はすべての国において最も大切な存在でしょう。どんな国でも人材なしには政府は動かないからです。第20回共産党大会の閉幕の際に団派の代表的な人物、胡錦濤前国家主席が摘まみ出されるシーンは印象的だったのではないでしょうか。この一幕が象徴するように、3期目を迎えた習近平は団派をほぼすべて一掃することに成功したと言っていいでしょう。

藤井:そうですね。

林:江沢民派や習近平派というのは権力闘争のための派閥です。一方で、団派は人数こそ多いものの、それらの派閥にくらべ結束力が弱いと言われています。

藤井:なるほど。

林:中国では権力さえ握れば、富も含め、すべてが手に入ります。その一方で、富を持っていたとしても権力がなければ、一夜にしてすべて失ってしまう可能性すらあるのが中国という国です。だから最高の成功は富を築くことではなく、権力を握ることだと認識されています。このため、権力闘争を戦い抜くことを目的としたグループはおのずと結束力が強くなります。それにくらべ、なぜ団派は結束力が弱いのか。これに関しては、団派が最初に結成されたプロセスを考えなければいけないでしょう。

藤井:はい。

林:そもそも団派とは、14歳から28歳で中国共産主義青年団に入ってきた人たちのことを指します。なぜ彼らが共青団に入ったかというと、要するにコネがなかったからです。団派の人たちは共青団に入ることによって共産党に入党する道が開かれます。これが団派に加入する最大のメリットです。他方、高官の子弟たちは紅二代(こうにだい)とも呼ばれ、共青団に入らなくても官僚として出世する道が約束されています。だから習近平のような人たちは、そもそも団派に入る必要がないわけです。中国では共産党の党員になること自体が一つの特権であって、コネがない人たちが出世しようと思えば、まずは共青団の門を叩かなければならない。厳しい審査を受け、それに合格した人たちだけが選抜されて、共青団に入っていくことになります。

藤井:なるほど。

林:中国共産党の党員は9000万人とされていて、そのうちの8000万人が共青団出身者だと言われています。彼らには二つの特色があって、一つは大卒あるいは大学院を卒業した人が多く、一般的に学歴が高いことが知られています。そして二つ目ですが、やっぱり有能だということです。親のコネや恩恵がないなかで出世してきたということは、自分で必死に頑張らなければならなかった。だからこそ団派の人たちは中国共産党のなかでも最も優秀な人材で、しかも最も意欲ある人たちだと言っていいのではないかと思います。ところが習近平は3期目続投を契機に、この人たちをほぼ一掃しました。もちろん中国の官僚制度から団派の人たちがすべて抹消されたわけではないにせよ、トップの指導層やエリート層から排除されたことは大きなインパクトがあると考えています。

藤井:そうですね。

林:例えば24名の政治局員のなかに団派は誰も入っていません。まだ50代の胡春華(こしゅんか)は貧しい出身ながら有能で、団派の次世代のホープと目されてきました。ところが彼は政治局員になれなかった。そして団派のなかでは彼だけが中央委員にかろうじて踏みとどまるという結果になったわけです。団派の代表的人物を挙げるとすれば、1人が李国強(りこっきょう)、もう1人が汪洋(おうよう)、そして胡春華でしょう。李克強と汪洋は習近平の同世代ですが、胡春華は習近平とは年齢が離れていて、次世代の国家指導者になり得る人物です。その彼が追放されたインパクトは大きい。彼は政治協商会議の副主席という職に就きましたが、そもそも政治協商会議自体がお飾りの機関で、何十人もいる副主席のうちの1人という立場です。胡春華が権力の中枢から転げ落ちたことは明らかでしょう。これには一つの見せしめ効果があって、団派はこれで派閥的な側面を完全に失ったと言ってもいいかもしれません。なぜならグループのリーダーである胡錦涛が排除され、李克強、汪洋、胡春華というトップ4名が追放されたからです。人数がいくら多いとはいえ、リーダーのいないグループになってしまったということに他なりません。一生懸命に頑張った結果がこういう顛末であれば、有能な人たちはやる気を失います。最も有能なグループの人たちがやる気を失えば、結果的に無能な人間が上に立つような構図が生まれてしまうのは当然の帰結でしょう。

藤井:なるほど。

林:習近平は自分ですべて指導したがるところがありますが、大国を治めるために最もいい統治方法は無為而治(むいじち)だと僕は考えています。これは老子の『老子道徳経(ろうしどうとくきょう)』に出てくる言葉ですが、老子は「何もしないほうがかえって治まる」と説きました。要するにトップは座っているだけで、有能な部下たちが自ら考えて動いてくれたほうがいいわけです。リーダーが必ずしも頭がいい必要はないが、リーダーは知恵がないと務まらない。その知恵とは、どういうものか。これもまた老子の言葉ですが、若烹小鮮という言葉があって、これは「大国を治むるは小鮮を烹るがごとくす」という知恵です。どうしても何かに変化を加えるのであれば、小魚を料理するように無闇にいじらないことが肝要だと老子は説いています。

藤井:人為的にやることはなるべく少なくして、自然に任せたほうがいいという考え方ですよね。

林:そうです。道教の始祖である老子は、これこそが最高の統治方法だと言っています。僕は老子が好きで、無為而治こそが国の理想的な統治方法だと思いますが、歴史的に中国は儒教と法家の道を歩みました。だから老子の教えが歴史上で実現されたことはありません。

藤井:なるほど。

林:団派は習近平に排除されましたが、彼らは縁故で登用されたわけではなく、中国共産党のなかの手順を踏んで出生してきた人たちです。日本にも公務員国家試験があるように国の人材登用にはいろいろな慣例がありますが、中国では古くから科挙が行なわれ、官僚が選抜されてきました。それに合格するために勉強することはある意味で役に立たないものばかりです。僕は国の人材登用は公平であれば、どんな制度でもいいと考えています。どんなに厳しい選抜制度にしても、どんなにいい選抜制度にしても、優秀な人間はどんな組織でも20%しか出てこないから、極端なことを言えば、くじ引きで選んでもいいと思っています。組織というのは20%の有能な人間と60%の平凡な人間、その他の20%の無能な人間で構成され、それで組織は上手く回っていくわけです。

藤井:そうですね。

林:ところが習近平は3期目の人事で団派を排除したうえ、イエスマンばかりを要職に就けました。イエスマンは習近平の知恵を絶対に超えてはいけない。そして習近平の指示を忠実に実行することだけが許されます。そういうことであれば、これらイエスマンたちは100%無能な人間だと断言していいでしょう。

藤井:なるほど。

林:さらに習近平は彼らに100%の忠誠心を要求するわけです。習近平は何度も、両面人禁止(りょうめんじんきんし)と言ってきました。どういう意味かというと、面従腹背を禁止するということです。忠誠心がない奴は絶対に許さない。それが、習近平という人間です。

藤井:はい。

林:そして習近平はつい最近の政治局会議で「全国の公務員、共産党の党員、国営企業の職員、公立学校の教師は習近平思想を学習しなければならない」という指令を出しました。中国人は面の皮が厚いことでも知られていますが、どんなに破廉恥な人間でも、いくら鉄面皮な人間でも、さすがに「自分の思想を学べ」とは言わないでしょう。こんなことを恥ずかしげもなく言えるのは、習近平だけです。例えば文化大革命の時代には中国人全員が毛沢東思想を勉強していましたが、あれは林彪(りんぴょう)と劉少奇(りゅうしょうき)が「『毛主席語録』を読め」と指導したのであって、毛沢東自身が「毛沢東思想を勉強しなさい」とは言っていないわけです。さすがに恥ずかしいという気持ちがまだ残っていたのではないでしょうか。一方、習近平は自分の口で「習近平思想を勉強しなさい」と指令を出すわけですから、破廉恥としか言いようがない。

藤井:習近平同志は確か習近平思想の本を出していますよね。

林:習近平思想の代表的な本は『習近平全巻』の1巻と2巻。その他にも習近平思想に関する本はおそらく数百冊は出ているのではないかと思います。習近平はあらゆる分野の専門家ですから、習近平経済思想、習近平外交思想、習近平軍事思想を生み出し、最近ではコロナ禍で習近平思想に基づく疫病対策思想というものまで出てきました。だから習近平はもう神様だと言っていいでしょう。

藤井:もはや神様かもしれませんね。

林:そして中国共産党中央宣伝部は学習強国という名のAPPが開発して、それを使って習近平思想を強制することを始めています。

藤井:学習強国、力強い名前ですね。

林:いや、これは藤井さんが思っているような学習強国の意味ではなく、この学は動詞で、この強も動詞です。つまり習近平を学んで国を強くしようという意味になります。

藤井:なるほど。習を学ぶわけですか。

林:そうです。学習ではなく、習を学んで国を強くせよという意味になります。学習強国というAPPには習近平が何を語ったのか、習近平がどこを訪れたのかというようなことも含め、習近平思想が詰まっています。共産党員や国営企業の職員などは学習強国を勉強しなければならなくなりました。1日に2時間から3時間ぐらいは見ていないと点数が取れないようで、もし点数が取れなければ党員資格が剥奪されてしまうかもしれないと言われています。共産党員の資格を剥奪されれば、職を失うほか、今まで享受してきたものをすべて失うことになります。しかも最近ではテレビ局までもが習近平時間という番組を始めました。共産党員はそれを見なければいけない。もう本当に中国人にとっては一大事だと思います。習近平思想を学んでいない僕にも、中国人が「習近平思想なんて、こんなくだらないものは勉強したくない」という気持ちは少しだけ理解できますよ。なぜなら台湾の独裁政権時代に僕自身が孫文思想を強制的に勉強させられた過去があるからです。

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