経済を潰す

台湾

藤井:第2セクションのBは『経済を潰す』というテーマで、お話しをうかがいたいと思います。習近平が経済を潰すということですが、先ほどから話を聞いていると、習近平政権下では最先端のIT産業なんか発展しないのではないかと思ってしまいます。

林:実際、IT産業は2021年に頓挫したと言っていいでしょう。

藤井:習近平は「国内の半導体産業を育成する」と言って、すごい予算を注ぎ込みました。

林:彼は最初に1兆人民元を使い、それから予算をさらに増額していきました。そのときはIT産業とはまったく関係のない建設会社ですら、半導体製造に新規参入するということが起きていたわけです。1兆人民元は日本円に換算すると19兆円。すごい額です。中国では国家が産業推進のために奨励制度を設けて補助金を出す場合、その半分以上が個人のポケットに消えていくと言われています。

藤井:なるほど。

林:誰でも簡単に補助金制度に申請できるわけではないものの、中国らしく特権さえあれば申請することは可能です。例えばラーメン屋さんが「明日から半導体を作るぞ」と申請したケースもありました。そして彼らは実際に土地を買って、工場を建てて、機械まで導入したわけです。もちろんそれらは見せかけで、莫大な補助金を受け取った後に夜逃げするということが頻繁に起きました。中国ではこのような不正行為は他にも多く見受けられます。

藤井:半導体だけではなく、他にもたくさんあるんですか。

林:ゴーストタウンという言葉がありますが、中国には何十万坪の広さの巨大なゴースト工場が溢れかえっています。日本では何千坪の工場は大工場を言われるから、その規模はケタ違いです。こういった状況から見ても、半導体の大躍進政策は結果的に大失敗に終わったと言っていいのではないでしょうか。半導体工場の成功例はほぼないと言ってもいいぐらいだと思います。

藤井:半導体の大躍進政策は大失敗だったということですが、事前に林さんからIT産業を潰すというキーワードを頂いています。これはどういったことになりますか。

林:習近平政権は国進民退という政策を掲げ、推進してきました。

藤井:国営企業が前に進み、民間企業が退場していくということですよね。

林:はい。国営企業が民間企業の株を買うことで、習近平政権は国進民退を進めてきました。経営権まで握るためには少なくとも51%の株を獲得しなければならないと我々は考えがちですが、中国の国営企業は背後に中国共産党がいるため1株でも持っていれば発言権を得て、民間企業を完全に支配することができるような仕組みになっています。それにプラスして、すべての民間企業は共産党の党支部を社内に作なければならないわけです。また中国では党のほうが政府より立場上は上位に位置しています。例えば省であれば省長の上に省の書記がいて、市であれば市長の上に市の書記が存在しているように、民間企業でも社長の上に共産党支部の書記が置かれることになります。たとえ社長が「この会社は私が設立したものだ」と言ったところで、書記のほうが上位です。こういう仕組みによって国営企業は民間企業をどんどん乗っ取っていきました。2013年の習近平政権以降、この傾向はずっと進められています。まさに国進民退です。さらに習近平は2期目から共同富裕というスローガンを掲げました。共同富裕と聞くと言葉としてはいいように思いますが、要するにこれは金持ちに対して税金を払う以外にも「もっと国に金を出せ」という政策です。国進民退と共同富裕という二つの政策を見れば分かるように、中国経済が良くなるはずがないということです。

藤井:はい。

林:国進民退という政策の下では頑張って会社を成長させたとしても、国に株を買われてしまえば会社は国のものになってしまいます。これでは民間はやる気を失います。また共同富裕ですが、一生懸命に頑張って儲けたとしても、国が「こんなに利益があるじゃないか。もっと金を出せ」ということであれば、経済が良くなるはずがない。我々だって税金をきちんと支払った後は国とは関係なく、自分のものになるじゃないですか。一方、中国では納税後も「こんなに残っているじゃないか。これも出しなさい」と国から要求されるわけです。こんな政策では、みんながやる気を失うのも当然ではないでしょうか。

藤井:そうですね。

林: 2023年になってからIMFや世界銀行が「中国経済が回復している」としきりに言っていますが、僕は回復しているとはとても思えません。

藤井:最近、中国経済が回復しているというような活字を見る機会は確かに多いような気がします。

林:日本のマスコミではそういう記事が多いと思います。一方、中国国家統計局はつい最近、4月のPMI(購買担当者景気指数)が49.2だったと発表しました。これは中国経済が悪化している証拠を自ら公表したと言っていいでしょう。PMIは西側諸国では最も信頼できる景気指数とされ、50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気減退を示すものです。それが3月とくらべ2.7も下がりました。そもそも中国の統計は当てになりませんが、とりわけPMIはアンケートの調査対象である購買担当者が本音を言わないうえに国家統計局が数字を改竄するから信用に値しません。それでも50を下回ったわけです。これは明らかに景気減退を意味しています。

藤井:そうですね。

林:もう一つ、国家統計局が発表した16歳から24歳までの若者の失業率を見ておきたいと思いますが、最近発表された4月の若年層失業率は20.4%で、3月の19.6%から着実に増えています。この数字からも明らかなように、中国経済は景気減退局面に入ったと言っていいのではないでしょうか。

藤井:なるほど。

林:実態はもっとひどいと思います。なぜかというと、中国の失業率は都市部しか計算に入っていないからです。

藤井:都会に住んでいる人たちしか対象になっていないということですか。

林:そうです。またたとえ都市部に住んでいたとしても、農村戸籍の人たちは対象外です。

藤井:出稼ぎの人たちは計算に入れないということですか。

林:はい。都市戸籍を持っている人だけが対象になっていて、しかも失業者が自ら申請しないと失業者としてカウントされないことになっています。さらに失業中に1日だけアルバイトで働いた場合、失業率の計算に含まれません。そして先ほど説明したように農村戸籍の人たちはそもそも計算されず、農村戸籍の人たちの就業率は100%ということが前提になっています。

藤井:農村部は失業率ゼロということで計算されているんですか。

林:そうです。それでも国家統計局の発表したデータによれば、4月は3月よりも失業率が増えました。PMIを見ても、失業率が増えているという傾向を見ても、景気が回復している兆候はどこにも見当たらない。景気が良くなっているのに失業率が増えるということは基本的にはないわけです。そして景気が良くなっているのにPMI指数が50を下回るということも基本的にはないでしょう。こういう実情から考えても、日本のマスコミが垂れ流している「中国経済が回復している」というような報道は中国共産党に歩調を合わせた宣伝だとしか僕には思えません。習近平政権以降、中国経済はどんどん悪化しているというのが僕の認識です。

藤井:なるほど。地方の失業率を無視するなど下駄を履かせた数字なのに、それでも若年層の失業率が20.4%ということは社会不安レベルの話ではないでしょうか。

林:そうだと思います。さらに大卒者に限れば、失業率は50%を超えています。

藤井:えっ。大卒の失業率はもっと高いんですか。

林:大卒者の失業率はかなり高くなっています。

藤井:インテリを放置しておくとろくなことがないと昔から言われます。そのうち、いろんな社会不安が起きるんじゃないですか。

林:もちろん中国政府もこのことを厄介に思っていて、我々からすれば考えられないような策を打ち出してきました。その対策については後のセクションで申し上げますので、ここでは一旦、話を戻しましょう。なぜ中国経済が悪化しているかというと、簡単にいえば中国が中所得国の罠に陥っているからです。発展途上国がある程度の段階まで成長すると、人件費が上がったり、土地が値上がりしたり、さらに社会的に環境破壊に対する懸念が高まったりして、これまでの中国のプラスの面がすべてマイナスに転じたわけです。

藤井:いわゆる中進国の罠ですよね。発展途上国のときは労働者も低賃金で、ある程度は環境汚染しても構わなかった。ところが中進国になると労働者の賃金が大幅に上がっていって、その意味で国際競争力が落ちてくるということですよね。どの国でも経済成長率は頭打ちになります。中国がたとえ14億人の人口を抱えていても、そういう状況は他の国と変わらない。そして上海などの沿海部を中心に賃金はどんどん高くなっていきました。外国企業にとって、もはや魅力的な環境ではないと言いきっていいでしょうね。

林:中国の都市部の不動産価格は今や東京の不動産より何倍も高くなっていて、上海や北京の不動産価格は東京の4倍から5倍くらいに値上狩りしています。普通のマンションでさえ、億単位の資金がないと買えないぐらいに高騰しています。

藤井:今や中国のそういう人たちが東京の湾岸のタワマンを買い漁っていますからね。

林:そうですよね。

藤井:彼らからすれば、東京の不動産は安いから買っているということでしょう。

林:そうですね。今や台湾から見ても、東京の不動産は破格の安さだと思います。

藤井:台湾の大卒者の初任給は、遥か昔に日本の初任給を抜きましたからね。いかに日本の景気が悪かったかということを如実に示していると思います。

林:そうですね。中国ではいい条件を失いつつあるなかで経済成長が頭打ちになっていて、2018年以降の米中貿易戦争がさらに追い打ちをかけたという経緯があります。中国では軍事と外交は国家主席、経済は国務院の所管ということで分業体制になっていて、経済が悪くなったとはいえ極端に悪くなっていないの李国強の功績かもしれませんが、それでも習近平は過去10年のあいだにいろんなところに自ら手を突っ込んでいました。3期目を迎えた習近平は李克強から李強に首相を変え、団派の有能な人たちを全員排除することになりました。数少ない有能なイエスマンの劉鶴は引退。李強は中央政府の経験も国務院の経験もまったくない人物です。経済を所管するのが国務院総理である李強の役割ですが、陣容を見るかぎり、習近平自身が経済まで担当することになったと言えるでしょう。一つの例だけ挙げておきたいと思います。李強は5月5日の国務院会議で「これからの中国の産業はハイテク産業にグレードアップしなければいけない」という指示を出しました。国の予算をハイテク産業により配分するということは伝統産業に回す予算が削減されることを意味します。ところが習近平は同日開催の中央財政経済会議で「これからの経済については党中央が統一管理しなければいけない」と発言して、さらに「伝統産業を潰してはいけない」と付け加えました。李強首相が伝統産業からハイテク産業に転換していくような指示を出した矢先に、国家主席の習近平が李強の発言をひっくり返したわけです。これだけでも分かるように、今後は習近平が経済政策を舵取りしていくと言って間違いないでしょう。

藤井:なるほど。

林:国進民退と共同富裕という政策によって、中国資本の国内産業は大打撃を受けてきました。一方、中国のGDPの4割を占めているのは外国資本です。

藤井:外資はそんなに大きいんですか。

林:はい。ハイテク産業に限れば、台湾資本と香港資本とそれ以外の外国資本が7割ぐらいを占めているのではないかと思います。

藤井:なるほど。

林:それなのに、習近平が外国資本に突きつけたのはEconomic Coercion、つまり経済的脅迫です。広島のG7会議でも中国の経済的脅迫にどのように対処するのかということが議論されました。例えば尖閣諸島で問題が発生したときに日本にレアアースを輸出しないなど、中国はずっと以前からEconomic Coercionを続けています。外国資本が最も警戒感を強めたのは、コロナが猛威を振るっていたときでしょう。中国はマスクと医療用品をアメリカに輸出しなかったわけです。

藤井:確か、中国政府はアメリカの3М社が中国で生産したマスクを輸出できないようにしていましたよね。

林:このとき、アメリカは中国のEconomic Coercionに対して警戒心を物凄く強めました。これだけでも外資が逃げていくには十分な理由だったと思います。実際にどのぐらいの外資が逃げていったのかというと、2022年の外資の投資額は前年とくらべ43%もダウンしています。これは中国の国家外貨管理局が発表しているもので、外資が逃げていったということを端的に示していると思います。

藤井:なるほど。

林:それにプラスして、中国は4月に反スパイ法を改正しました。この改正法は7月から施行されますが、改正前の反スパイ法もあって、中国では過去3か月のあいだにアメリカ系のコンサルタント調査会社が反スパイ法に抵触したとして、相次いで捜索を受けています。3月にはMintz Groupの北京事務所が家宅捜索され、中国人職員5人が逮捕されました。もちろんパソコンや携帯電話は没収されています。4月にはBain & Companyという調査会社が捜査を受けました。

藤井:Bain & Companyは、有名なコンサルタント会社ですよ。

林:そうですね。Bain & Companyの上海事務所に捜査員が踏み込んでいって、パソコンや携帯電話を没収しました。それから5月にはCapvisionという調査会社の上海と北京と蘇州と深圳の事務所が家宅捜索を受けています。

藤井:なるほど。

林:これがどんな結果をもたらすかというと、今後は外国資本が中国に進出できなくなることを意味するのではないかと僕は考えています。例えば中国に進出しようと思えば、まずは調査会社に依頼して市場調査しなければならないじゃないですか。

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