藤井:こんにちは。藤井厳喜です。本日、1月25日の台湾ボイスはいつも通り、林建良さんと一緒にお送りします。林さん、よろしくお願いします。
林:よろしくお願いします。
藤井:今日、1月25日は台湾大使の謝長廷(しゃちょうてい)先生にインタビューしたということで、本編は短くいきたいと思います。
林:はい。
藤井:台湾の民進党政権がちょっと揺れているという話がいろんなところから聞こえてきます。現状では昨年11月の地方選挙での大敗の責任を取って蔡英文総統が民進党の主席を辞任され、その後の選挙で頼清徳(らいせいとく)さんが党首に就任しました。
林:そうです。
藤井:林さんにはそこら辺までの話はカバーしていただいたと思います。そのうえで内閣が総辞職するのではないかという噂が出てきました。内閣総辞職の件はまったく分かりませんが、民進党の団結が乱れていることは間違いなさそうです。また24年の総統選挙で国民党に鳶に油揚げをさらわれることにならないかと私は日本人の立場から心配しています。そこら辺の解説をお願いしたいのですが。
林:団結というのは口で言うほど簡単ではないでしょう。団結しなければ次期総統選挙に勝てないと分かっていたとしても、みんなが過去のわだかまりを捨てて団結できるのかといえば、それはそれほど簡単なことではないと思います。民進党は人事が流動的で固まっていません。また方向性も流動的で固まっていない。そういう事態に直面しています。
藤井:なるほど。
林:まず民進党の支持率の推移を確認しておきたいと思います。2022年11月26日の統一地方選の前から支持率がだんだんと下降線を辿り、大敗後に大きく落ち込みました。そして12月に蔡英文政権は兵役延長という最も難しい政策に着手しています。兵役を4か月から1年間に延長することを決めたわけです。
藤井:大変なことだったと思います。
林:兵役延長はみんなが嫌がる政策です。ところが蔡英文政権はその不人気政策をあえて断行したことで逆に支持率を回復させています。要するに民進党政権が票のことばかり考えるのではなく、国のためになるのであれば不人気政策にもあえて遂行するという姿勢を明確に打ち出したことが評価されたのではないかと考えています。リップサービスに明け暮れて、有権者に媚びているようでは国民からの支持は得られない。だからこそ兵役延長を発表したとき、支持率が幾分上がったのではないでしょうか。
藤井:なるほど。
林:蔡英文総統は昨年11月26日の時点で民進党主席を辞任しています。またそれと同時に行政院長の蘇貞昌(そていしょう)さんが「自分も辞任する」と総統に辞職を申し出たわけですが、そのとき蔡英文総統から慰留され、蘇貞昌(そていしょう)さんは一時的に辞任を保留した形になっていました。
藤井:なるほど。
林:蘇貞昌さんが保留にしたのは、別に行政院長の地位に未練があったわけではなく、予算案がまだ通っていなかったからです。内閣の最も重要な役割は議会で予算案を通過させること。もし蘇貞昌さんが予算案の審議が終わっていない段階で辞任してしまえば、後任の人は議会で答弁できないじゃないですか。やっぱり予算案を作成した人が議会を完全に通過するまで辞任すべきではないというのが僕の考えです。
藤井:なるほど。
林:それこそが責任ある政治家というものではないでしょうか。僕は蘇貞昌行政院長を物凄く高く評価していました。彼は本当に有能な政治家です。行政院長に就任してから3年数か月のあいだに、いろいろな難問を解決してきました。就任当初は中国の豚コレラがもうすでに発生していて、彼は強力な措置を取って中国産豚肉の輸入を阻止しています。
藤井:はい。
林:それから国民党がずっと阻止していたアメリカ産の豚肉の輸入問題にも毅然とした態度で臨みました。また日本の福島周辺の農産物の輸入禁止という件についても、彼は精力的に取り組んでいます。さらに2020年からのコロナ対策でも上手くやってきたと思います。何が言いたいかというと、彼は物凄い業績を残してくれたということです。ところが今回の地方選の大敗で責任問題に発展しています。彼に地方選大敗の責任はないと思いますが、台湾全体の民意はやはり何らかの形で責任を取ることを求めています。それはある意味で台湾人による民主主義が完全には成熟していないということの証ではないかと思っています。民主主義はある意味で責任政治と言ってもいいかもしれません。ただし責任の所在は彼にはなく、彼に責任を求めること自体がお門違いだということです。残り1年の政権で有能な政治家を辞めさせていいのか、僕は疑問に感じています。
藤井:はい。
林:確かに党は大敗の責任を取って、蔡英文総統が党首をお辞めになりました。そして党では新しい人事がようやく固まり、これからは団結しなければならないということで再スタートを切っています。しかしながらこれはあくまで党側がケジメを付けたに過ぎないということなんです。一方で今は政治側の責任が問われ、行政の責任はどうなのかということが焦点になっています。蔡英文総統が辞任するわけにはいかない。そこで政策執行の責任者である行政院長が辞めるべきだと議論されているわけです。こういう声が大きいのは確かでしょう。
藤井:なるほど。
林:台湾ではこれが責任政治と解釈され、民主主義は責任政治だから選挙に負けた政治家は辞任すべきだという認識が高まっていますが、これは未熟な判断だと言わざるを得ない。そして非常にリスキーだと思います。しかしながら現実にはこれが台湾の今の民意になっています。決して国民党だけではない。確かに国民党は有能で対峙しにくい蘇貞昌さんを辞めさせたいと思っているでしょう。
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